Japan Renewables Alert 67


10 minute read | February.29.2024

English: Japan Renewables Alert 67

Today's Topic

  1. 再エネ事業規律強化のための改正事項
  2. 再エネ導入促進のための改正事項
  3. EEZにおける洋上風力
  4. その他の重要事項
  5. 新年度の展望

2024年度は、再エネ発電事業に影響し得る多くの制度改正が予定されています。

2024年4月には、脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律(令和5年法律第44号。以下「GX脱炭素電源法」)による再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(平成23年法律第108号。以下「再エネ特措法」)の改正が施行されます。この改正により、FIT/FIP認定申請や一定の事項についての変更認定申請に先立って住民説明会等が求められることとなるとともに、経済産業大臣は、認定されたFIT/FIP事業計画に沿って事業を実施していない事業者に対してFIT/FIP交付金の支払を留保する「積立命令」を発することができるようになります。既に2024年2月20日には関連する再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法施行規則(平成24年経済産業省令第46号。以下「再エネ特措法施行規則」)を改正する省令(令和6年経済産業省令第6号)が公布されています。

他方、こうした再エネ事業に対する規律強化を図る改正に加え、既存案件やFIP制度の活用を通じて社会的負担を抑えつつ再エネの一層の導入を図るための改正も予定されています。FIT/FIP発電所に併設される蓄電池への系統側からの充電を可能とする改正や、時限的にFIP価格算定におけるバランシングコスト相当額を引き上げる改正などが含まれます。

加えて、洋上風力に関しては、世界第6位とされる日本の広大な排他的経済水域(EEZ)の活用に向け、新たな制度構築が進められています。

再エネの導入拡大が環境施策としても産業施策としても一層重要性を増す中、本稿では、新年度以降予定される様々な改正事項のうちのいくつかを概観し、新年度を展望します。

1. 再エネ事業規律強化のための改正事項

再エネ事業の規律強化に関する改正事項としては、第1に、Japan Renewables Alert 66の1においてご紹介したとおり、高圧以上の再エネ発電所についてFIT/FIP認定を受けるには、これに先立って、一定の要件を満たした説明会を開催することが求められるようになります(GX脱炭素電源法による改正後の再エネ特措法9条4項6号参照)。また、設備設置場所の地番の変更や一定の出資者の変更(合同会社の社員の変更のほか、匿名組合員の変更も該当し得ます。)の際にも、説明会の開催が必要となります(改正後の再エネ特措法10条1項、4項、改正後の再エネ特措法施行規則(こちら)8条の2、説明会及び事前周知措置実施ガイドライン(こちら)28頁)。なお、2024年2月20日に公表されたガイドライン及び同案についての意見募集手続の回答では、いくつか懸念される事項も見受けられます。例えば、事業者が法人の場合には、その「役員又は従業員のうち十分かつ適切な説明をすることができる者が出席し、説明すること」との記載が盛り込まれ(20頁)、ガイドライン案についての意見募集手続の回答では(こちら。No. 84)、「事業者がSPCである場合に、親会社やアセットマネジメント業務受託者が説明を行うことは許容されるか」との問いに対し、SPCが認定事業者となる場合には「SPCの代表者が説明をするなど、当該SPC自身が主体となる形で説明が行われることが必要」と回答されており、再エネ事業において一般的に採用されているストラクチャに照らして今後の影響が懸念されます。

第2に、経済産業大臣は、認定されたFIT/FIP事業計画に違反していると判断した事業者に対し、FIT/FIP交付金相当額をOCCTOに積み立てるよう命じる権限を有することとなります(改正後の再エネ特措法15条の6)。FIT/FIP認定の取消しと異なり、聴聞等の事前の意見陳述の機会を付与せずに発出可能と整理されており(行政手続法13条2項4号参照)、機動的な発令が可能とされています。さらに、経済産業大臣は、FIT/FIP認定を取り消す場合には、当該取消しを受けた事業者に対し、FIT/FIP交付金の返還を命じ得ることが規定されています(改正後再エネ特措法15条の11第1項)。

2. 再エネ導入促進のための改正事項

再エネ導入促進に関する改正事項としては、第1に、Japan Renewables Alert 62の3でご紹介したとおり、既存の太陽光発電所の活用を図る観点から、FIT/FIP太陽光発電所の太陽電池の合計出力(いわゆるDC値)の増加によるFIT/FIP価格への影響が低減されることになります。具体的には、価格変更事由とされている3kW以上又は3%以上のDC値の増加について、既存部分には引続き従前の水準の価格が、増加部分にのみ最新の水準の価格が適用されるのと同様となるよう新たな適用FIT/FIP価格が算出されることとなります(改正後の再エネ特措法10条の2、改正後の再エネ特措法施行規則(こちら)10条の2)。なお、発電設備容量の増加は従前どおり設備全体について最新の水準の価格が適用されることとなります。

第2に、FIP再エネ発電所に併設される蓄電池への系統側からの充電を一部可能とする規定が、再エネ特措法施行規則に追加されます(意見募集手続中の再エネ特措法施行規則改正案(こちら)5条)。対象となる案件は、2024年4月1日以降にFIP認定を取得する発電側課金対象案件です。2022年度・2023年度の既認定FIP案件や2023年度までに取得していたFIT認定からFIP認定に移行した案件は対象外とされていますが、2023年12月19日に開催された有識者会議における事務局の説明では、今後、既認定FIP案件についても必要な検討を進めるとしています(こちらの36頁)。

第3に、経済産業省の有識者会議では、FIP交付金の算定におけるバランシングコスト相当額の金額を時限的に引き上げることが提案されています。バランシングコスト相当額については、現行の制度・方針の下では、2022年度中は1.00円/kWh、2023年度中は0.95円/kWh、2024年度中は0.90円/kWh、2025年度中は0.80円/kWhが、FIP交付金単価(円/kWh)算定において加算されることとされており、年度ごとに順次低減される金額が設定されています。新たな方針案では、FIP案件としての運転開始の初年度は、年度にかかわらず1.0円/kWh、4年目以降は現行制度・方針に従って定められる額(各年度ごとに定められる額)とし、2年目及び3年目については、各年度の低減幅が同じとなるよう段階的に低減させるものとされています。適用対象は、太陽光については2024~2026年度にFIPとして運転を開始した事業、風力については2024~2027年度にFIPとして運転を開始した事業とされています。FITからFIPへ移行する案件についても、上記各年度内に移行すれば対象となるとの説明がされています。

3. EEZにおける洋上風力

国は、EEZにおける洋上風力発電の実施に必要な制度の構築に向けて議論を進めてきました。2024年2月9日には、有識者会議における議論がまとめられ、同月22日まで意見募集手続に付されました(こちら)。

これによると、EEZにおける洋上風力については、(1)国による設置許可を受けた事業者のみが発電設備を設置して長期間利用でき、(2)許可を受けた事業者がその希望により再エネ特措法に基づくFIT/FIP入札に参加することで支援を受けることができるという「二段階方式」とすることが提案されています。具体的には、(1)(a)国が自然条件等を勘案するとともに、防衛レーダー、主要航路等を踏まえて省庁間での協議を経た上で募集区域を指定し、(b)事業者は、当該募集海域内で、発電事業を実施する海域を自ら設定し、区域図案及び発電設備設置計画案とともに国に申請を行い、(c)国がその内容を審査して仮の許可を付与した後、(d)利害関係者によって構成される協議会での調整等を経て、(e)設置許可に至ることが想定されており、(2)更に事業者が希望すれば、再エネ特措法に基づくFIT/FIP入札への参加をすることができるものとされています。

別の有識者会議では、領海内での洋上風力発電事業の環境影響評価だけでなく、EEZにおける洋上風力発電事業の環境影響評価についても議論がされています(こちらを参照)。

今後、EEZにおける洋上風力の実現に向けて、関係する制度改正が見込まれます。

4. その他の重要事項

上記改正事項に加え、2024年4月からは、発電側課金が導入されます。発電側課金導入に関する各一般送配電事業者の託送供給等約款の変更については、既に経済産業大臣の認可がされています。FIT/FIP案件に関しては、既認定案件はFIT/FIP期間の終了まで発電側課金は免除されることとされている一方、新たにFIT/FIP認定を受ける案件には発電側課金が課されることとされ、ただ、発電側課金の全国平均値を基礎として電源種ごとの特性を踏まえて算出される発電側課金相当額を加えて適用FIT/FIPが定められることとされています。

また、全国で初めてとなる再エネ発電事業に特化した課税を行う「再生可能エネルギー地域共生促進税条例」(令和5年宮城県条例第34号。以下「宮城県条例」)も、2024年4月から施行が予定されています(Japan Renewables Alert 63の4及びJapan Renewables Alert 66の2を参照)。宮城県条例は、森林区域における開発を伴う再エネ発電所の建設を抑制するものですが、一定の手続の下に地域の合意形成が図られた案件については、課税対象からの除外を認めることを可能としています。国は2030年度に再エネ比率36~38%を実現するとの目標を掲げており、各都道府県も脱炭素に真剣に取り組む必要に迫られる中、今後、宮城県条例の実際の運用の在り方が注目されます。

5. 新年度の展望

再エネに対する企業及び社会の需要は一層旺盛になっていることに加え、再エネ導入の進展とともに蓄電事業の重要性も高まっています。関連する案件のストラクチャや各事業者の関与はこれまで以上に多様化・複雑化しており、この傾向は新年度も継続すると思われます。

弊所では、FIP制度の導入以前から、米国での経験も活かし、他に先駆けて日本でのコーポレートPPA案件の実現に取り組んでまいりました(Japan Renewables Alert 60Japan Renewables Alert 56などをご覧ください。)。FIP・非FIPを問わず、多数のコーポレートPPA案件を含む非FIT再エネ案件などの開発、契約交渉、資金調達に携わってきた実績を活かし、新年度も、新たな挑戦をされる事業者様のお力になれればと存じます。

※    弊所では、今年度も、引き続き隔週での有料版 Regulatory Update Report(日英併記対応可)を配信しており、ご好評を頂いております。ご関心がありましたら、こちらからお気軽にお問合せくださいませ。