Japan Renewables Alert 66


11 minute read | December.26.2023

English: Japan Renewables Alert 66

Today's Topic

  1. 住民説明会、2024年4月からFIT/FIP新規・変更認定の要件に
  2. 宮城県再エネ設備課税、2024年4月から施行
  3. 洋上風力第2ラウンド3海域の結果公表

再エネ発電設備の設置に当たっては地域の環境や地域住民の生活に対する適切な配慮が期待されており、これまでも多くの事業者がその期待に応えてきましたが、近時は「地域共生」の観点からの制度改正が見られます。その1つとして、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(平成23年法律第108号。以下「再エネ特措法」)の改正により、2024年4月1日から、法令上の要件として、50kW以上の太陽光や陸上風力のプロジェクトについてFIT/FIP認定を受けるためには、周辺地域の住民に対する説明会の実施が原則として求められることとなります(Japan Renewables Alert 63の1.(2)参照)。この新たな説明会要件は、プロジェクトの譲渡、設備設置場所の変更、一定の増出力についての変更認定申請に当たっても求められることとなります。また、宮城県では、「地域共生」を掲げ、森林区域での開発行為を経て設置される再エネ発電設備の所有者に対して課税を行う「再生可能エネルギー地域共生促進税条例」(令和5年宮城県条例第34号。以下「宮城県条例」)を制定しています(Japan Renewables Alert 63の4.参照)。宮城県条例は、2023年11月17日に同条例に基づく課税に必要な総務大臣の同意を得、2024年4月1日から施行予定です。

このほか、2023年12月13日には、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号以下「再エネ海域利用法」)に基づく一般海域洋上風力公募の第2ラウンドの対象となっている4海域中3海域について落札結果が公表されました(第2ラウンドに関しては、Japan Renewables Alert 62の1.参照)。FIP制度の下で行われた初の洋上風力公募であり、2海域で3円/kWhというFIP制度上のプレミアムをほぼ期待しない水準での落札結果となりました。

本稿では、これら地域共生に関する動向と洋上風力公募第2ラウンドの結果をお届けします。

1. 住民説明会、2024年4月からFIT/FIP新規・変更認定の要件に

2023年6月公布の「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(いわゆるGX脱炭素電源法。令和5年法律第44号)による再エネ特措法の改正により、2024年4月1日以降、FIT/FIP認定の要件として、再エネ発電設備の周辺地域の住民に対して周知措置を完了していることが求められます(改正後の再エネ特措法9条4項6号)。この周知措置は、新規認定の場面に限らず、「重要な事項」の変更についての変更認定の要件としても求められることとなります(改正後の再エネ特措法10条4項)。

周知措置の内容や「重要な事項」の詳細は、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法施行規則(平成24年経済産業省令第46号。以下「再エネ特措法施行規則」)において定められます。これまで経済産業省の有識者会議における議論及び意見募集手続を経て、2023年11月28日にその報告書がまとめられており(こちら)、さらに、同日には再エネ特措法施行規則を改正する経済産業省令の概要案(以下「改正案」)が公表され、改正案についての意見募集手続が開始されています(こちら。意見受付は同年12月27日23時59分まで)。

改正案では、50kW以上の再エネ発電設備(屋根設置の太陽光、再エネ海域利用法対象の洋上風力を除く。)について、周辺地域の住民に対する説明会の実施を求めています。説明会の日時・場所については、(1)再エネ発電事業の実施場所の敷地境界線から一定の範囲(環境影響評価の第一種事業に該当する場合には1 km)に居住する者、(2)実施場所に隣接する土地又はその上にある建物を所有する者及び(3)市町村長が必要と認める者に対し、2週間前までに一定の方法で通知することとされています。説明会では、計画や工事の概要、土地使用権原の取得状況、認定申請者の主要な出資者などの情報、周辺地域の安全、景観、自然環境及び生活環境に対して及ぼし得る影響及びその予防措置の内容などを説明することとされており、周辺地域の住民との質疑応答の機会を設け、その質問及び意見に対して誠実に対応することが求められるほか、説明会の状況を録音・録画してFIT/FIP期間の終了まで記録媒体を保管することが求められます。さらに、説明会後には、2週間以上の期間にわたって周辺地域の住民からの質問・意見を受け付け、これに対して書面をもって誠実に回答することが求められます。

説明会の開催は、認定申請の3か月前に求められるほか、林地開発許可等の一定の開発関連許認可(2023年10月1日から原則として認定申請までに取得していることが求められることとなりました。Japan Renewables Alert 63の2.参照)が必要なプロジェクトについては、当該許認可の申請までの間にも説明会を開催することが求められます。法アセスを行う場合には、配慮書作成前の段階や評価書の公告後工事着手前の段階での実施も必要です。

また、変更認定に際して説明会の実施(50kW以上の場合)が求められる「重要な事項」の変更には、認定事業者の変更のほか、認定事業者と「資本関係等において密接な関係を有する者」(密接関係者)の変更が挙げられます。現行法令下では、SPC名でFIT/FIP認定を取得する場合、当該SPCの持分を譲渡しても必ずしも変更認定申請をする必要はありませんが(代表者・住所の変更に関する事後変更届出は必要)、2024年4月以降は、こうした「密接関係者」の変更にも変更認定申請が必要となり、説明会の開催が求められることとなります。このほか、20%以上又は50kW以上の増出力や設備設置場所の変更についても説明会が求められることとなります。変更認定申請については例年12月半ば頃に当該年度内(翌年3月まで)に認定を受けるための期限が設けられますので、2024年4月以降は、FIT/FIP事業計画の変更のスケジュールにはこれまで以上に注意が必要です。

2. 宮城県再エネ設備課税、2024年4月から施行

宮城県条例は、0.5haを超える森林区域の開発を経て設置された再エネ発電設備(太陽光、風力又はバイオマス)の所有者に対し、その発電出力に応じて課税するものです。非FIT案件を含め、太陽光は原則として620円/kWが、風力は原則として2,470円/kWが、バイオマスは1,050円/kWが課されることとされているほか、FIT認定を受けた太陽光及び風力については、適用FIT価格に応じ、太陽光で最大2,640円/kW、風力で最大4,760円/kWが課されます。ただし、施行日までに着工済みの案件は課税対象外です。

また、宮城県条例では、(i)温対法上の地域脱炭素促進事業計画に基づくもの、(ii)農山漁村再エネ法上の設備整備計画に基づくもの、(iii)これらに準ずるもの(以下「準ずる事業」)として市町村長が認め、知事が認定した事業計画に基づくものなどは、課税対象から除外されています。宮城県では、2023年9月25日、「地球温暖化対策推進法に基づく「促進区域」「地域脱炭素化促進事業」の認定等に係るガイドライン」を公表し(こちら)、除外対象となる「準ずる事業」として認定されるための基準や手続について説明しています。

宮城県条例は、地方自治体が独自に税目を制定する「法定外税」であり、実際に課税を行うには総務大臣の同意が必要でした(地方税法259条1項)。2023年7月の公布後、有識者による審議会での議論を経て、同年11月17日に総務大臣の同意がされたことから(こちら)、宮城県条例は、予定どおり2024年4月1日に施行されることとなります。宮城県条例は、再エネ発電設備に特化した法定外税として総務大臣の同意を得た初の例であり、今後、他の自治体でも類似の条例を制定する動きが加速する可能性があります。

3. 洋上風力第2ラウンド3海域の結果公表

再エネ海域利用法に基づく洋上風力公募の第2ラウンドの対象となった4海域中3海域について、2023年12月13日、選定事業者が発表されました(こちら)。第2ラウンド公募は、通常の卸取引を行うことを前提に毎月プレミアムを付与するFIP制度((a)FIP価格と(b)前年度の市場価格等をベースに算出される参照価格との差額がプレミアムとして付与されます。)の下で実施された最初の洋上風力公募です。いずれの海域も着床式を前提とするもので、FIP価格の上限値は、ジャケット式での施工が想定される「長崎県西海市江島沖」で29円/kWh、モノパイル式が想定される他の3海域では19円/kWhと設定されました。公募における評価は「価格」(120点満点)と「事業実現性」(120点満点)の観点から行われるところ、価格点は、最低値での応札に120点が付与されるほか、FIP制度下でのプレミアムが生じる見込みの低い価格水準(ゼロプレミアム水準)とされる3円/kWh以下の応札に120点が付与されます。

上記公表された結果によると、落札価格は、「秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖」及び「新潟県村上市及び胎内市沖」はゼロプレミアム水準である3円/kWh、「長崎県西海市江島沖」では22.18円/kWhでした。「秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖」では公募に参加した3事業者全てが、「新潟県村上市及び胎内市沖」では4事業者中3事業者が3円/kWhでの入札をしており、FIP制度下でのプレミアム以外からの収益を確保することが求められる結果となっています。

なお、「秋田県八峰町及び能代市沖」については、港湾の利用重複に伴い、最も評価の高かった事業者が公募占用計画を再提出することとされています。「秋田県八峰町及び能代市沖」の選定結果は2024年3月に公表される予定であり、今回選定結果が公表された他の海域における「非選定事業者名」や「事業実現性評価点」のより詳細な点数内訳及び講評等も併せて公表される予定です。

再エネ海域利用法に基づく洋上風力公募に関しては、第3ラウンドの候補地として既に青森県沖日本海(南側)(最大受電電力600 MW)及び山形県遊佐町沖(同450 MW)が促進区域に指定されています(Japan Renewables Alert 65の1.参照)。第3ラウンドの公募ルールを定めた公募占用指針の案についての意見募集も2023年12月17日に締め切られており(こちら)、今後の動向に留意が必要です。

来年への展望

環境政策上も産業政策上もエネルギーの脱炭素化が急務となる中、本年も多くの法令・制度の改正ないしこれに関連する議論がありました。こうした法令改正や制度変更に関する議論を適切かつ早期に把握することの重要性は、来年以降も変わらないと思われます。

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