Japan Renewables Alert 65


8 minute read | October.18.2023

English: Japan Renewables Alert 65

Today's Topic

洋上風力の展望――ラウンド3公募に向けた促進区域指定、浮体式の未来

日、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号。以下「再エネ海域利用法」)に基づく「促進区域」として新たに2海域が指定されました。一般海域における洋上風力に関しては、新たな評価基準の下で初のFIP認定を前提とした公募となったラウンド24海域。2023630日応募締切)の審査が現在行われているところですが、今年度中の応募開始が見込まれるラウンド3に向けた準備も始まっています。

また、2023103日には、促進区域の前段階にある海域として浮体式を前提とする3海域が公表されたほか、現在、国の主導の下に実施されている浮体式洋上風力関連の実証プロジェクトの候補地も公表されるなど、浮体式拡大に向けて大きな動きがありました。

日本では、202212月に初の商業規模での洋上風力発電が開始されており、2050年カーボンニュートラル実現に向け、洋上風力発電の拡大が一層加速することが見込まれています。本Alertでは、日本の洋上風力の今後を展望します。

1. ラウンド3公募に向け促進区域指定

日本では、港湾区域等を除いた一般海域におけるある程度の規模のある洋上風力案件は、再エネ海域利用法の枠組みの下で実施される公募により事業者を選定して実施されることとされています。再エネ海域利用法の下では、地元利害関係者も参加する「協議会」における検討を踏まえ、国が「促進区域」を指定し、事業者を募集する公募(手続や評価基準は国が策定する「公募占用指針」において示されます。)を実施します。この公募に参加して選定された事業者は、事業実施のために最大30年間(延長可)の占用許可及びFIT/FIP認定を取得し、公募参加時に提出した公募占用計画に沿って洋上風力発電事業を実施します。

2023103日、経済産業大臣及び国土交通大臣は、再エネ海域利用法に基づき、新たな促進区域の指定を行いました(こちら)。今回促進区域として指定されたのは、「青森県沖日本海(南側)」(青森県つがる市、鰺ヶ沢町及び深浦町の沖合)及び「山形県遊佐町沖」の2海域です。いずれも着床式が想定されており、選定事業者がFIP認定を取得する想定の下、今後、公募占用指針の策定及び事業者公募(ラウンド3)が見込まれます。これまでの例に照らすと、年内にも公募が開始される可能性があります。

国では、促進区域の前段階に当たる「有望な区域」(以下「有望区域」)及びその更に前段階にある「一定の準備段階に進んでいる区域」(以下「準備区域」)を公表しています。2023103日の上記促進区域の指定の際には、有望区域として「山形県酒田市沖」を、また準備区域として「北海道岩宇・南後志地区沖(浮体)」及び「北海道島牧沖(浮体)」を新たに整理したことが併せて公表されました。いずれも浮体式での案件を想定した海域です(なお、準備区域として挙げられている2海域については、既に着床式での有望区域としても整理されています。)。

これにより、現在の準備区域及び有望区域の整理並びに促進区域の指定の状況は、下記の地図(出典はこちら)のとおりとなっています。

Maritime REA Area Status Japanese version

2. セントラル方式による調査対象海域公表

国は、政府及び自治体の主導的な関与により効率的な案件形成を実現する仕組みとして「セントラル方式」の確立を図っています(こちらを参照)。これまで洋上風力においても各事業者が個別に風力・海底地盤の調査、地元調整、環境影響評価、系統接続の確保を行うことが前提とされてきましたが、再エネ海域利用法の公募制度の下で円滑な案件形成を図るためには、セントラル方式による案件形成が有効であるとの指摘がされていました。

セントラル方式の一環として、たとえば、(1)風況・海底地盤の事前調査を国が先行して行った上でその結果を選定事業者に利用させる仕組み、(2)環境影響評価の初期段階の手続を国が行った上で選定事業者にこれを引き継ぐ仕組み、(3)国主導で系統接続を確保する仕組みなどが検討されてきました。(1)の風況・地盤調査については、2022年の法改正を経て、2023年度からは北海道の3区域(「北海道岩宇・南後志地区沖」、「北海道島牧沖」、「北海道檜山沖」)においてJOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)による調査が実施されています。

2023103日には、新たに有望区域又は準備区域に選定された前記3区域(「北海道岩宇・南後志地区沖(浮体)」、「北海道島牧沖(浮体)」、「山形県酒田市沖」)について、2024年度からセントラル方式による調査を開始する予定であることが公表されています。

なお、(3)の系統接続の確保については国の審議会での議論を経て一定の方針が示されているほか(こちらを参照)、(2)の環境影響評価についても、国の審議会で議論がされて、今後の方向性が提案されています(こちらを参照)。セントラル方式の下で、地元関係者との利害調整を行いつつ迅速に案件が形成されていくことが期待されています。

3. 浮体式NEDO実証フェーズ2候補地公表

国は、2050年カーボンニュートラル実現に向け、特に公的資金を投入してイノベーションを促すべき分野を支援するグリーンイノベーション基金(以下「GI基金」)を造設しています。こうしたGI基金事業の1つとして、浮体式洋上風力発電を国際競争力のあるコスト水準で商用化する技術の確立などを目指し、「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトが、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)において実施されています(こちらを参照)。

「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトでは、フェーズ1において要素技術開発を支援し、フェーズ2においてその成果を活かしつつ浮体式洋上風力の実証事業を行うこととしています。2023103日には、この「フェーズ2」における実証事業の対象海域の候補地として、北海道石狩市浜益沖、北海道岩宇・南後志地区沖、秋田県南部沖、愛知県田原市・豊橋市沖、の4海域が公表されています。実証事業を実施する事業者は公募(再エネ海域利用法に基づくものではない。)により選定することとされており、希望する事業者は、今後実施予定の公募において、対象区域を選択して計画を作成・提出し、NEDOによる審査を経て採択(2か所程度)されることになります。

なお、北海道岩宇・南後志地区沖については、前記のとおり2024年度からセントラル方式での調査の対象区域ともされていますが、フェーズ2の対象区域として選ばれた場合には、セントラル方式調査対象区域からは除外されるものとされています。

4. 今後の展望

日本の国土は山地や森林が多く、近年は、大規模な再エネ発電プロジェクトの実施に対し、地域環境保全や防災の見地から地元から反対の声が上がる事例も増えています。周囲を海に囲まれた日本では洋上風力に大きな期待が寄せられており、202212月及び20231月の秋田県での日本初の商業規模での洋上風力発電事業の運転開始を経てその機運は一層高まっています。

また、日本近海は遠浅の海域が少ないことから、深い水深に適した浮体式洋上風力に対する期待は高く、国も積極的に推進しています。さらに、政府有識者会議で排他的経済水域(EEZ)での洋上風力発電事業の実施は国際法上可能と結論づけられたことを受け(こちらを参照)、EEZでの洋上風力事業実施に向けた法整備も近々本格的に検討予定であり、浮体式洋上風力の拡大に対する期待は高まっています。

20231011日から13日にかけては、北九州市において、JWPA(日本風力発電協会)及びGWECGlobal Wind Energy Council)によりGlobal Offshore Wind Summitが開催されました(こちらを参照)。洋上風力に対する国内外の高い関心を反映して30か国から約550名が参加しました。JWPA監事を務め、当サミットの女性活躍紹介コーナーでも紹介された弊所パートナー弁護士である若林美奈子始め、弊所のアメリカ、シンガポール、東京の各オフィスの弁護士複数名も現地に赴きました。

環境政策上も産業政策上もエネルギーの脱炭素化が急務となる中、エネルギー分野では多くの制度改正がされています。制度改正やその議論の内容を把握することが事業遂行上も必要不可欠となっています。弊所では、個別案件でのアドバイスはもちろん、隔週でのRegulatory Update Report(有料)配信(日英併記対応可)もご提供しておりますので、ご関心がありましたら下記連絡先までお気軽にお問合せくださいませ。