Japan Renewables Alert 63


13 minute read | June.09.2023

English: GX Decarbonization Electricity Act Amending Renewable Energy Law and Regulations/Local Taxation on Renewables – Pressing for Coexistence with Local Community

Today's Topic

GX脱炭素電源法による再エネ特措法等の改正/自治体による再エネ課税―地域共生への要請加速

2023年5月、エネルギー政策に関する重要な法律が2つ国会で成立しました。1つは2023年5月12日成立、同月19日公布の「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(令和5年法律第32号。以下「GX推進法」)であり、いま1つは同月31日成立、同年6月7日公布の「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第44号。以下「GX脱炭素電源法」)です。GX推進法は、脱炭素社会への移行(グリーン・トランスフォーメーション、GX)のための投資を促進する仕組みや将来の化石燃料賦課金及び排出量取引制度といったカーボンプライシング制度の導入を内容とする法律です。他方、GX脱炭素電源法は、脱炭素社会実現のため、電気事業法(昭和39年法律第170号)、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(平成23年法律第108号。以下「再エネ特措法」)及び原子力発電関連3法を改正するものです。

日本政府は、2050年のカーボンニュートラル実現を宣言しており、2030年には、総発電量に占める再エネの比率を36~38%、原子力の比率を20~22%とすることを念頭に、温室効果ガス排出量を2013年度比46%削減することを掲げています。政府は、再エネの導入を推進するためにも再エネ発電事業と地域社会との共生が重要であると考えており、GX脱炭素電源法による再エネ特措法の改正ではFIT/FIP事業に対する規律を強化する方策が盛り込まれています。

本稿では、再エネ発電事業に大きな影響を与え得る再エネと地域との関わりに関する話題をお届けいたします。

1. GX脱炭素電源法による再エネ特措法の改正

再エネ事業の地域共生に関しては、経済産業省の有識者会議「再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ」(以下「地域共生WG」)が、2023年2月10日付けで「中間とりまとめ」(こちら。以下「中間とりまとめ」)を公表しています(概要に関してはJapan Renewables Alert 62(こちら)の2.をご参照ください。)。GX脱炭素電源法による改正後の再エネ特措法(以下「改正後再エネ特措法」)では、中間とりまとめに示された考え方に沿って、FIT/FIP認定案件に対する規律が強化されています。上記改正は、2024年4月1日に施行されます。

(1) FIT/FIP交付金の積立命令及び返還命令

FIT/FIP認定を受けた事業者は、認定事業計画に沿って事業を実施することが義務付けられており(改正後再エネ特措法10条の3第1項)、第三者にその事業の全部又は一部を委託する場合は、認定事業計画に沿った事業運営がされるよう受託者に対し必要かつ適切な監督を行うことが義務付けられています(同条2項)。改正後再エネ法では、事業計画に違反していると判断した事業者に対し、FIT/FIP交付金相当額を電力広域的運営推進機関 (OCCTO)に積み立てるよう命じる権限を経済産業大臣が有することとなります(改正後再エネ特措法15条の6)。なお、違反事業者に対して、改善命令や認定取消しを行い得ることは、従来どおりです(改正後再エネ特措法13条、15条1号)。

FIT/FIP認定の取消し処分を行うためには、行政手続法(平成5年法律第88号)上、事前に事業者の言い分を聴取するための聴聞手続を経る必要がありますが(行政手続法13条1項1号)、金銭納付を命じるにとどまる処分についてはこうした意見陳述のための手続は不要とする例外が設けられています(同条2項4号)。上記積立命令は、この例外に該当すると解釈されることから該当聴聞等の事前の意見陳述の機会を付与せずに発出可能であり、機動的な発令が可能とされています(中間取りまとめ6頁)。事業者は、積立ての必要性がないことについての経済産業大臣の確認を受けない限り、積立金を取り戻せません(改正後再エネ特措法15条の9)。積立命令の制度を通じて、FIT/FIP事業計画に対する違反の抑止及び早期解消が行われることが期待されています。

また、経済産業大臣は、FIT/FIP認定を取り消す場合には、当該取消しを受けた事業者に対し、FIT/FIP交付金の返還を命じることができるとの規定が新設されました(改正後再エネ特措法15条の11第1項)。

(2) 地元説明会開催のFIT/FIP認定申請要件化

さらに、一定の再エネ発電設備については、周辺地域の住民に対する説明会の開催その他の事業内容の周知措置を行ったことをFIT/FIP認定申請の要件とする改正がされています(改正後再エネ特措法9条4項6号)。中間とりまとめでは、50kW以上の再エネ発電設備や一定の保護エリアに設置される50kW未満の設備についてこうした説明会の開催を求めること(中間とりまとめ13頁、14頁)、説明会等の周知措置の具体的内容についてのガイドラインを制定すること(同14頁)が示唆されています。

改正後再エネ特措法では、こうした説明会の開催その他の周知措置は、一定の事項に関する変更認定申請の要件としても求められています(改正後再エネ特措法10条4項・9条4項6号)。今後、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法施行規則(平成24年経済産業省令第46号。以下「再エネ特措法施行規則」)により、事業譲渡による認定事業者の変更の際にこうした措置が求められるようになると推測されます(中間とりまとめ15頁)。

2. 地域共生関係の他の改正

GX脱炭素電源法による再エネ特措法の改正以外にも、再エネ特措法施行規則の改正等により、地域共生の観点からのFIT/FIP制度の改革が見込まれます。たとえば、中間とりまとめでは、FIT/FIP認定申請の要件として一定の開発許認可を求めることが提案されています(中間とりまとめ4頁)。2023年5月31日には、地域共生WGの第6回会合(こちら)が開催され、この点について議論がされています。

中間とりまとめでは、FIT/FIP認定申請の要件とする許認可として、(1)森林法(昭和26年法律第249号)に基づく林地開発許可(10条の2)、(2)宅地造成及び特定盛土等規制法(昭和36年法律第191号。以下「盛土等規制法」)に基づく許可、(3)砂防法(明治30年法律第29号)、地すべり等防止法(昭和33年法律第30号)及び急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)に基づく許可の取得(いずれも必要な場合に限る。)が挙げられています(中間とりまとめ4頁)。また、上記(1)から(3)の各許認可以外の許認可でも、必要に応じFIT/FIP認定申請要件とすることとされています(同4頁)。なお、環境影響評価法(平成9年法律第81号)又は条例による環境影響評価手続の対象となる風力・地熱案件については、認定申請時までの許認可取得は求めず、FIT/FIP認定から3年以内の取得を求める(取得できない場合には認定取消し)とされています(同4、5頁)。

上記の地域共生WG第6回会合では、中間とりまとめで示された上記方針が改めて確認されたほか(資料1の3頁)、入札案件では、入札参加時(事業計画提出時)ではなく、認定申請時を基準とする方向性が示されています(同10頁)。また、今後、経済産業省における調査を踏まえ、申請要件として追加すべき許認可があれば、地域共生WGにおいて検討するとしており(同7頁)、2023年夏に再エネ特措法施行規則その他の関連省令を改正し秋頃に施行する予定です。なお、事業者の予見可能性に配慮し、非入札案件のうち改正施行前に不備なく申請がされたもの、入札案件のうち改正施行前に事業計画受付の締切が到来するものは、改正を適用しないとする経過措置を設ける方針が示されています(同10頁)。

なお、盛土等規制法は、従前の「宅地造成等規制法」が、発電所建設目的のものを含め一定の盛土等を伴う開発行為も規制対象とするよう改正されたものであり、2023年5月26日に施行されました。都道府県知事の指定する規制区域内における一定の開発行為について都道府県知事の許可を求めるものであり、今後、規制区域の指定等が行われます(こちらを参照)。

加えて、再エネ発電設備の適切な廃棄ないしリサイクルの促進も重要な課題として認識されています。中間取りまとめでは、太陽光パネルの適切な廃棄ないしリサイクルの前提となる含有物質の情報提供をFIT/FIP認定申請時に求める方針が示されています(中間とりまとめ11頁)。

3. 地域脱炭素化促進事業

2022年4月1日から、地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号。以下「温対法」)の改正により、「地域脱炭素化促進事業」制度が開始されています(2022年4月1日施行)。

「地域脱炭素化促進事業」とは、(1)地域の脱炭素化のための取組み((i)再エネ発電設備等の導入及び(ii)他の地域脱炭素化のための取組みを一体的に行うもの)と(2)地域の(i)環境保全及び(ii)経済社会の持続的発展のための取組みとを合わせて行う事業を指します(温対法2条6項)。「地域脱炭素化促進事業」の具体的内容や対象となる区域(促進区域)は市町村によって定められ(温対法21条5項)、再エネ発電等を行う事業者は、市町村から「地域脱炭素化促進事業」の認定を受けると(温対法22条の2第1項、3項)、林地開発許可などの一定の許認可を取得したものとみなされる(同法22条の5以下)というものです。

温対法の上記改正では、地域の課題を改善しつつ再エネ導入を行うための制度となることが期待されており、市町村は、温対法上、「地域脱炭素化促進事業」の促進区域や基準を策定するよう努めるものとされています(21条5項)。しかし、環境省による調査では、2022年12月時点においても、これを定めた市町村は全体のわずか0.2%である4団体、「策定に向けた検討を進めている」市町村も6.2%の101団体にとどまっているのに対し、9割以上の市町村が「策定予定だが、まだ検討を開始していない」(40.6%)又は「今後も策定する予定はない」(52.9%)と回答しており、制度の活用が進んでいないことが明らかとなっています(環境省資料(こちら)41頁)。

制度活用が進んでいない背景としては、市町村における人材・知見の不足や地域におけるメリットが十分に認識されていないことが指摘されています。環境省では、地域脱炭素化促進事業制度の活用を促進すべく、新たな有識者会議を設立して検討を開始しています(こちらを参照)。

4. 地方自治体による再エネ課税

地方自治体のうちには、再エネ発電事業に対する課税の導入を検討しているものがあります。

弊所Japan Renewables Alertでは、岡山県美作市が、太陽光発電事業に対し、太陽光パネルの面積を基礎として課税する「パネル税」を導入しようとしていることをお伝えしました(Japan Renewables Alert 57(こちら)を参照)。これに加え、近時、宮城県が、一定の森林開発を伴う太陽光、風力又はバイオマス発電所に対する課税を検討しています。

宮城県で検討されている「再生可能エネルギー関係新税」(以下「再エネ新税」)は、0.5haを超える森林の開発行為の完了後5年以内に着工された太陽光、風力又はバイオマス発電設備について、その発電出力を基礎として課税するものです。2023年5月17日開催の有識者会議において示された最終案(こちら)によると、営業利益の20%程度に相当する税率を設定することを念頭に、太陽光であれば原則として税率620円/kW、風力であれば原則として税率2,470円/kW、バイオマスであれば税率1,050円/kWを年ごとに課すことが提案されています。FIT認定を受けている太陽光及び風力に関しては、適用FIT価格によっては(太陽光であれば適用FIT価格10円/kWh以上で、風力であれば適用FIT価格18円/kWh以上)上記よりも高い税率を課すことが提案されており、たとえば、適用FIT価格36円/kWh以上の太陽光であれば税率8,340円/kW、適用FIT価格20円以上の風力であれば税率4,740円/kWとされています。

再エネ新税は、温対法に基づく地域脱炭素化促進事業の促進区域内にあり、その認定を受けた再エネ発電設備は対象外としていますが、宮城県内では、まだ市町村による促進区域の指定はされていません。施行日時点において開発行為に着手した開発区域に所在する再エネ発電設備も対象外とされているものの、5年程度で行われる見直しの際には既存案件を含めて適用対象とするかどうかも含めて改めて検討される余地があります。宮城県では、再エネ新税に関する条例を早期に成立させ、早ければ2024年にも課税を開始したい考えです。

美作市のパネル税と同様、宮城県の再エネ新税も、法定外税(地方税法(昭和25年法律第226号)に税目が定められておらず、地方公共団体が地方税法に基づき新たに設ける税目の税)であり、これを課すには総務大臣の同意が必要です(地方税法259条1項。なお、総務大臣の「同意」に関しては、上記Japan Renewables Alert 57の2.及び3.をご参照ください。)。他の地方公共団体への波及も考えられる中、国の脱炭素政策に対する姿勢も問われることとなります。

5. まとめ

以上のとおり、再エネ発電事業をめぐっては、これまで以上に地域との関わり方の重要性が増し、また、国の法令変更等だけでなく、地方公共団体の施策が事業に大きなインパクトを与え得る事態となっています。一方で、地域との良好な関係を築かれている多くの事業者に対する期待も大きなものがあり、事業者の皆様におかれても、時に積極的な提案もしつつ、その声を適切に届けていくことが求められています。

原子力の再活用を前提としたGX脱炭素電源法が成立した足下で日本のエネルギーマーケットは激動の時代を迎えており、法令・制度の改正を踏まえた上で新たな挑戦に臨むことの重要性は一段と増しています。弊所では、マーケットをリードされる皆様をサポートすべく、太陽光・風力を中心とする主要な法令・制度等の改正事項について、隔週でのレポート配信(有料)も行っておりますので、ご興味がありましたらお問い合わせください。