Japan Renewables Alert 62

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February.02.2023

English: Japan Renewables Alert 62

Today’s Topic

再エネの規律強化と導入促進-2023年の展望

(日本語は英語の後に続きます。)

2022年は、日本の再エネ市場が新たな段階に入ったことを象徴する年でした。FIT制度から10年目の節目の年であり、FIP制度が開始されるとともに、コーポレートPPAの実現のために有用な制度の整備も進みました。特に、バーチャルPPAに関しては、その実現に不可欠な非化石証書の直接相対取引が制度化されるとともに、長らく懸念事項とされてきた商品先物取引法上の疑義について弊所も関与の上で規制当局の見解が公表される(Japan Renewables Alert 60をご参照ください。)など、大きな進展がありました。

2023年は、これら2022年の成果を踏まえて新たなビジネスが花開く年となることが期待されています。また、2023年も、脱炭素社会実現のための諸制度、とりわけその中心的な役割を担う再エネ分野において、多くの制度改正及びその検討が行われることが見込まれます。2023年最初の本Alertでは、近時の再エネ関連の重要な動向のいくつかをお伝えするとともに、本年の再エネ市場を展望します。

1. 洋上風力公募開始

2022年12月28日、洋上風力発電事業の「第2ラウンド」の公募占用指針が定められ、公募が開始されました。

一般海域における洋上風力発電事業は、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号)に基づき、国が指定した促進区域において、公募を行って事業者を選定することとされています。各公募における評価方法等は、国が各公募の際に定める公募占用指針に定められます。

第2ラウンドは、(1)八峰町・能代市沖(秋田県)、(2)西海市江島沖(長崎県)、(3)男鹿市・潟上市・秋田市沖(秋田県)、(4)村上市・胎内市沖(新潟県)の4つの各促進区域が対象とされています(いずれも着床式)。FIP制度による初の公募であり、第1ラウンドの結果も踏まえつつ、新たな評価基準に基づいていかに卓越した公募占用計画を構築できるかが競われます。四方を海に囲まれた日本では洋上風力に対する期待は高く、電力業界に限らず、世論の大きな注目を集めています(Japan Renewables Alert 61もご参照ください。)。

2. 再エネの事業規律・地域共生

近年、一部の不適切な再エネ発電所の開発・建設が、山林を破壊し、地域の安全や環境に対する脅威となっていると指摘されることがあります。国は、社会の理解を得ながら適正な再エネ導入を推進するため、再エネ発電所の事業規律及び地域共生を推進すべく、法令改正を予定しています。

2022年には、経済産業省の審議会(再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ)で、地域共生のための方策についての議論が行われました。2022年12月には、この議論をまとめた「中間とりまとめ」の案(以下「中間とりまとめ案」)が公表され、2023年1月10日まで意見募集(パブリックコメント)手続に付されていました(こちらを参照)。今後、中間とりまとめ案の内容に沿った法令改正・運用改正が見込まれており、留意が必要です。

中間とりまとめ案では、一定の許認可をFIT/FIP認定の申請要件とすることが提案されています。具体的には、(1)森林法上の林地開発許可、(2)宅地造成及び特定盛土等規制法上の許可、(3)いわゆる砂防三法における許可などが挙げられています。このうち、(2)宅地造成及び特定盛土等規制法は、宅地造成等規制法が改正されるものであり、都道府県知事の指定する規制区域内で太陽光発電設備設置のために一定の盛土を行う際などに、許可の取得が義務付けられます(2023年5月26日施行)。また、(1)の林地開発許可については、その対象となる太陽光発電設備設置目的の開発行為を1ha超から0.5ha超に引き下げ、規制対象を拡大する改正がされています(2023年4月1日施行)。FIT/FIP認定の手続における取扱いはもちろん、こうした各許認可についての法令・運用の改正にも留意が必要です。

また、FIT/FIP制度においては、国に提出した事業計画に反した事業を行えば、指導、改善命令を経て、最終的にはFIT/FIP認定が取り消される可能性があります。もっとも、一般的には、認定取消しなどの重大な処分をすることに対して行政は慎重である上、最終的に認定を取り消されるまでの間はFIT買取/FIPプレミアム交付は継続されると解されています。そこで、より機動的で実効性の高いエンフォースメントを実現するため、中間とりまとめ案では、事業計画違反があれば経済産業大臣がFIT収入/FIPプレミアムの積立命令を発令してその支払を留保できる仕組みが提案されています。行政手続法上聴聞を経る必要がある認定取消しと異なり、積立命令は、聴聞手続を経ることなく迅速に発令が可能と整理されている点にも留意が必要です。

さらに、FIT/FIP認定の申請に先立って、一定規模の再エネ発電所については地域住民に対する説明会の開催を義務付けるなど、地域とのコミュニケーションを促す制度が提案されています(発電設備の規模、地球温暖化対策法上の地域脱炭素化促進事業に関する協議の有無等により、義務の内容に違いが設けられるものと見込まれます。)。また、事業者の変更により地域住民にとって責任主体が分かりづらくなる点も問題視されていたことを受け、FIT/FIP案件の事業譲渡に当たっても同様の手続を導入することが提案されており、この点は今後のセカンダリー取引において留意が必要です。

3. 既存太陽光案件の活用促進

FIT/FIP制度では、認定取得後に一定の変更事由が生じた場合には、当初認定時のFIT/FIP価格に代わり、当該変更事由についての変更認定がされた時点の最新のFIT/FIP価格に切り下げられることとされています。こうした価格変更事由のひとつとされてきた事後的な太陽電池の合計出力(DC値)の増加(3kW又は3%以上の増加)に関し、この切下げ幅を小さくするよう制度改正がされる見込みです。

DC値の増加が価格変更事由とされた背景には、DC値の増加が賦課金(FIT制度に基づく一般送配電事業者等による買取りの費用の相当部分は、電力使用者が支払う賦課金を原資としています。)の増大につながるということがあります。しかし、既存太陽光発電所において、太陽光パネルを増設したり高効率なものに更新したりすることは、新たな土地の開発なく再エネ電気の増加に繋がります。切下げ幅が大きい現在のルールはこうした望ましい増設・更新を抑制する効果があると指摘されています。

そこで、賦課金負担の抑制と既存再エネ発電所の有効活用とのバランスを図り、当初価格と最新価格を当初DC値と増加分とで加重平均する(当初価格p〔円〕、当初DC値A〔kW〕のFIT/FIP案件を、最新価格q〔円〕の年度にB〔kW〕増加させた場合には、変更後の適用FIT/FIP価格は(p×A+q×B)÷(A+B))という案が検討されています(こちらの資源エネルギー庁の資料(42頁)を参照)。

4. 今後の展望

政府は、2050年カーボンニュートラルを目指し、2030年に、再エネ比率36~38%、温室効果ガス46%削減を達成するとの目標を掲げています。本Alertにおいて触れた事項のほかにも、再エネ大量導入時代に向け、系統整備、蓄電池導入促進、水素・アンモニア関連施策に関する多くの施策が検討されており、年度末(3月)に向けて多くの制度改正が見込まれるとともに、より中長期的な展望を見据えた制度設計の議論も並行して進められています。マーケットでも、コーポレートPPAなど非FITでの再エネ調達への関心も大きく高まっており、弊所では、既に米国等で10年以上にわたり各種PPAを第一線で扱ってきた経験を活かし、多くの事業者様のスキーム検討や交渉をサポートさせていただいております。

エネルギーのマーケットは、これまで以上に激動の時代を迎えており、法令・制度の改正を踏まえた上で新たな挑戦に臨むことの重要性が一段と増しています。弊所では、今後とも、このマーケットをリードされる皆様のサポートを続けてまいります。