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November.17.2022
English: Corporate PPAs (No. 3) – Application of Commodity Derivatives Transaction Act to Virtual PPAs
Today’s Topic
2022 年 11 月 11 日、バーチャル PPA における差金決済について、一定の場合においてはこれが商品先物取引法の適用対象とはならないとの経済産業省商品市場整備室(経済産業省 商務情報政策局 商務·サービスグループ 商品市 場整備室)による整理が、内閣府のウェブサイトにおいて公表されました(こちらを参照。該当箇所は 7 番)。こちらは、弊所による内閣府を通じた照会に対し、電力先物取引を所管する商品市場整備室から出していただいた回答です。 このように、日本におけるバーチャル PPA の実現の大きな障害となっていた論点について当局から一定の考え方が書面で示されて公表されたことにより、バーチャル PPA 取引の組成に向けた動きが一層加速する可能性があります。
バーチャル PPA とは、再エネ発電事業者と法人需要家との間で、実際の電力のやり取りをせずに再エネ証書を移転する取引を指し、日本では、需要家が、再エネ発電事業者から、特定の再エネ発電所における発電電力量相当分の非 FIT 非化石証書(再エネ指定あり)を購入するという取引を指すのが一般的です。
日本では、通常、需要家に対して系統と通じた電力を売ることができるのは、登録を受けた小売電気事業者(ないし許可及び登録を受けた登録特定送配電事業者)に限られるため、こうした登録のない再エネ発電事業者が小売電気事業者を介することなく電力自体を取引することはできません。もっとも、再エネ発電所に由来する環境価値を表章する非化石証書については、2022 年 4 月以降、一定の要件を満たす非 FIT 再エネ電源に由来する非 FIT 非化石証書(再エネ指定あり)について、再エネ発電事業者と法人需要家との間での直接取引が認められることとなっています。既存の小売電気事業者を変更することなく特定の再エネ発電所の再エネ証書を独占的に調達できるバーチャル PPA に対する需要家の関心は高く、こうしたニーズに対応するため、非 FIT 非化石証書(再エネ指定あり)の直接取引を可能とする改革がされました。2022 年 10 月には、これについてのトラッキング手続が整備された旨も公表されています。(関連資料は、 非化石電源認定及びトラッキングについて経済産業省及び JEPX から委託を受けた BIPROGY 株式会社のウェブサイトに掲載されています。こちら及びこちらを参照)
米国などで行われるバーチャル PPA では、電力市場の価格を参照した差金決済を行うことが一般的です。具体的には、 時間帯(30 分コマ)ごとに、電力市場価格(日本では、当該発電所の所在するエリアの JEPX 翌日市場の 1kWh当たりの価格)と契約当事者間で予め合意 した 1kWh 当たりの約定価格との差額に、当該時間帯における発電電力量を乗じ、 これをたとえば 1 か月分集計した値について精算を行うことになります。電力市場価格が約定価格よりも低くなる時間帯については、需要家が再エネ発電事業者に対する差額分の支払が発生し、逆に、電力市場価格が約定価格を上回る時間帯については、再エネ発電事業者から需要家に対する差額分の支払が発生することとなります。
上記のような電力市場価格を参照とした差金決済については、商品先物取引法の適用を受け、これを業として行うには原則として経済産業大臣の許可が必要とされる可能性が指摘されていました。すなわち、電力は商品先物取引法上の 「商品」に該当するところ(商品先物取引法 2 条 1 項 5 号)、電力市場の価格を参照して差金決済を行うことは「店頭商品デリバティブ取引」(同条 14 項 2 号)に該当する可能性が指摘されていました。店頭商品デリバティブ取引を業として行うことは、原則として、「商品先物取引」に該当し(商品先物取引法 2 条 22 項 5 号)、経済産業大臣の許可(同法 190 条 1 項)が必要とされています。
この点については、弊所では、日本におけるバーチャル PPA の可能性を検討する上で一部事業者様に対して 2019 年に指摘していましたが、その後、2020 年 11 月から 12 月頃にかけて商品市場政策室に照会した際に、店頭商品デリバティブ取引に該当する旨の回答を受け、その後も 2022 年初期まで同様の回答がされていました。商品先物取引業の許可は一般に金融業務を専門に行う銀行や証券会社などが取得するものであり(商品先物取引業者の一覧はこちらを参照)、 バーチャル PPA を行う再エネ発電事業者及び事業会社がこれを取得することには、相当のハードルがありました。また、 資本金 10 億円以上の株式会社を相手方とするなどの一定の要件を満たす店頭商品デリバティブ取引については、これを業として行っても商品先物取引業には該当しないこととされていますが(商品先物取引法 2 条 22 項柱書括弧書·同条 15 項、同法施行規則 1 条。なお、こうした例外に該当する店頭商品デリバティブ取引を業として行う場合、特定店頭商品デリバティブ取引業として商品先物取引法 349 条 1 項に基づく届出が必要です。)、こうした例外に該当するための要件もハードルが高く、実際上、バーチャル PPA 取引を組成する上での大きな障害となっていました。
今般、弊所では、再エネ関連分野の規制改革に取り組む「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォ ース」における要望事項として内閣府に提出し、この要望事項は、内閣府を通じて商品市場整備室に送付されました。 商品市場整備室は、弊所とのミーティングを行った後、バーチャル PPA における差金決済の店頭商品デリバティブ取引該当性に関する整理について書面での回答を内閣府に提出し、2022 年 11 月11 日、これが内閣府のウェブサイトに掲載されました(前記リンクの 7 番)。
今回公表された商品市場整備室の整理の内容は、「一般論として、差金決済について、当該契約上、少なくとも以下の項目が確認でき、全体として再エネ証書等の売買と判断することが可能であれば、商品先物取引法の適用はないと考えております。」というものであり、「以下の項目」として、①「取引の対象となる環境価値が実態のあるものである(自称エコポイント等ではない)」及び②「発電事業者から需要家への環境価値の権利移転が確認できる」の 2 点が挙げられています。
上記①における「実態のある」環境価値とは、広く取引対象として承認されているものであることを意味するとのことであり、弊所が商品市場整備室に照会したところでは、現行制度下での非 FIT 非化石証書はこの要件を満たすとの見解が示されています。「自称エコポイント」などの必ずしも広く社会的に認識されているものでない取引対象の場合には、環境価値売買に仮託した電力デリバティブ取引であると解する余地があるため、今回の整理の対象外とされているとのことです。
上記②における「権利移転が確認できる」という点については、環境価値を表す再エネ証書等を売主から買主に引き渡すことで売買であることが明確になっていることを述べたものとのことです。たとえば、発電事業者の下で再エネ証書を保有しつつ、需要家にこれを引き渡したと同視することについては、「権利移転が確認できる」ものに該当しない可能性があるとされています。
また、上記解釈の理由は、取引を全体としてみれば電力のデリバティブ取引ではなく環境価値の売買であるといえることにあるため、たとえば、1kWh 当たりの約定価格を 1,000 円とするなど市場の趨勢から大きく乖離した価格水準での取引については、環境価値売買に仮託した電力デリバティブ取引と解される余地があるものと思われます。
非 FIT でのコーポレート PPA は、我が国における再エネ取引の主流の 1 つになっていくことが期待されています。これまでにも弊所では多くのコーポレート PPA 案件に携わってまいりましたが、今回、商品先物取引法の解釈の整理が公表されたことで、今後、バーチャル PPA の組成に一層拍車がかかるものと考えます。