Japan Renewables Alert 56: コーポレートPPA (第1弾)


October.22.2021

English: Corporate PPAs (No.1)

Today’s Topic

コーポレートPPA (第1弾)

  1. 米国におけるコーポレートPPAの契約スキーム
  2. 非化石証書制度の最新動向 - FIT証書、需要家による直接購入可能に
  3. Solar Energy Future Japan 2021でのコーポレートPPAについてのパネル・ディスカッション

近年、企業は、再エネ(再生可能エネルギー)電気の調達を飛躍的に推し進めています。この世界的潮流は、電気事業者による買取りに依存していたかつての市場を様変わりさせ、「コーポレートPPA」(再エネ発電事業者が、電気事業者との間で電気を売る契約(Power Purchase Agreement。電力受給契約ないし電力売買契約の意)を締結するのではなく、電力需要家である企業との間で電気を売る契約を締結するスキーム)という巨大なチャンスを再エネ事業者にもたらしています。

弊所の米国チームは、2008年以降、最初期のコーポレートPPA案件に関与するとともに、2012年には初のバーチャルPPAの1つを実現させるお手伝いさせていただきました。弊所では、これまでの米国におけるコーポレートPPAの経験並びに日本国内における再エネの実績及び最近の流れを踏まえ、日本国内にもコーポレートPPAの円滑な導入を推進すべく、今後、コーポレートPPAについてのアラートをシリーズで随時発行する予定です。本アラートは、その第1弾として、米国におけるコーポレートPPAの代表的なストラクチャーをご紹介した上で、非化石証書取引市場における近時の制度改正を追います。

1. 米国におけるコーポレートPPAの契約スキーム

米国では、コーポレートPPAは2つに分類されてきました。すなわち、(1)電気の現実の受け渡しを伴う「フィジカルPPA」と、(2)各地域の電力市場の変動価格とPPAにおいて約定された価格との差金決済を電力量に応じて行うことを基礎とする「バーチャルPPA」ないし「シンセティックPPA」です。

(1) フィジカルPPA

フィジカルPPAでは、再エネ電気は買主(需要家企業)に現実に引き渡されます。オンサイト型発電(ビハインド・ザ・メーター型ともいわれます。)が最も直接的なフィジカルPPAであり、再エネ電気の発電と消費が同じ場所で行われます。多くの州では、このフィジカルPPAは「自家発電」に該当するものとして、許容されています。こうしたオンサイト型発電は通常の事業活動に必要な電気のほとんどを賄い得るものですが、大量の電気を必要とする需要場所の場合にはこれだけでは電気を賄いきれません。

データセンターや製造工場、倉庫などを保有するために多くの電気を必要とする需要家企業は、オフサイト(遠隔)の再エネ発電所とフィジカルPPAの契約を締結します。こうした発電所は、時に数百MWに及ぶより多くの再エネ電気を供給するのが一般的です。オフサイト発電所は、電力系統のいずれかの地点(多くは発電所の連系点)で需要家に電気を引き渡し、この地点で電気に対する権利が需要家に引き渡されて、以降は需要家により(ないしは需要家を代理する形で)実際の需要場所まで届けられます。この再エネ電気についてのREC(Renewable Energy Creditの略。再エネの環境価値を表章するもの)も、発電所の所在地で適用されるRECのトラッキング制度を通じて、売主から買主へと引き渡されます。こうしたPPAは、発電事業者と電気事業者との間で締結される従来型のPPAと近似していますが、電気事業者への売電とは異なり、登録等の制度下にある電気事業者ではない者に直接に販売するという形態の取引ですので、ごく一部の州でしか許容されていません。直接の小売取引に対するこうした規制があるため、発電所と需要家企業は「スリーヴドPPA」と呼ばれる形態の取引を行うこともあります。スリーヴドPPAは小売事業者としての役割を果たしてくれる第三者を入れる形態の取引であり、この第三者が電力小売を許されていない発電所から電気を購入した上でこれを需要家企業に売るという形態を取ります。

(2) バーチャルPPA

フィジカルPPAには上記のような制度上の制約があることから、需要家企業はバーチャルPPAによる契約を選択することが増えています。多数の需要場所(データセンターや店舗や事業所など)を有していたり、電気の直接小売取引が許容されていない州に施設を有していたりする場合には、バーチャルPPAが需要家企業の選択肢となり得ます。バーチャルPPAは、売主から買主への電気の直接の受け渡しこそ行われないものの、再エネ発電所を新設して追加的に再エネ電気を電力系統(送電網)に投入するものであり、特に再エネ発電所が買主の施設と同じ地域にある場合には、追加的な再エネによる便益(温室効果ガスやその他の有害物質の排出量の減少など)は同一の地域で得られることになります。バーチャルPPAの実現には電力売買を後押ししてくれる適切な市場環境が必要とされるという点は重要であり、バーチャルPPAは、活発な電力取引を許容し高い流動性を持つ電力取引市場を有するRTOやISOの管内の発電所について締結されます。バーチャルPPAにはいくつかの形態があり得ますが、いずれの形態でも再エネ発電所の新設促進が企図されています。バーチャルPPAの差金決済は、具体的には、(1)買主が再エネ電気及びRECを売主(発電所)から固定価格で買うことを承諾する、(2)売主がその発電した電気をRECと切り離して市場に売って収益を得る、(3)売主がRECを買主に移転する、(4)買主が地域の電気事業者から電気を買う、(5)売主と買主は、定期的に、売却された電気(環境価値のないもの)の電力量に基づいて、PPAでの固定価格と市場における変動価格との差額について差金決済をします。差金決済により、市場価格が固定価格を下回る場合には買主は売主にその差額を支払い、市場価格が固定価格を上回る場合には売主が買主に差額を支払うのが通常です。売主から買主に引き渡されるべき電力量については固定の「想定量」を設けないのが一般的です。

バーチャルPPAは、たとえば、発電電力量について、買主が固定のPPAレートを支払って市場変動レートでのキャッシュフローを受け取る「固定・変動スワップ」などのヘッジ契約の形態を取ることもあります。売主は、その発電に係るRECに対する権利を買主に移転します。スワップは、当該発電所で発電された電気の全部もしくは一部又は想定元本を基礎とするものが考えられますが、いずれの場合であれ、売主は、発電所建設資金の調達に活用できる固定価格での収益が得られるように組成されます。さらに、買主が最低価格を保証する一方で売主が上限価格を設定することにより、買主にとっての価格と売主にとっての収益を一定範囲に収める「カラーPPA」という形態での組成も考えられます。

(3) 日本市場への展開

日本でも、既にオンサイト型の「自家発電自家消費」のコーポレートPPAは多くの前例があります。また、オフサイトで発電された再エネ電気を送配電網を通じて供給を受けるオフサイト型のコーポレートPPAも、需要家企業が、当該再エネ発電所から電気を調達する小売電気事業者を通じて電気の供給を受けることなどで可能となっています。

他者から供給を受ける電気のうちどのようなものを再エネ由来の電気と考えるかについては、GHGプロトコルのスコープ2ガイダンスが国際標準となっています。これによると、企業は再エネ電気を使用していると主張するには、その由来する発電所をたどれることが求められますが、日本でも、非化石証書と発電所の属性情報を付与するトラッキング制度とを組み合わせて活用することで、この要件を充足できるとされています。再エネ電気の環境価値がRECとして取り出されることで電気の調達先と環境価値の調達先とを分離することができますので、たとえば、小売電気事業者が、電気の調達先と異なる再エネ発電所についての非化石証書を取得することで、需要家に対して実質的に再エネ電気を供給することも可能とされてきました。

もっとも、これまでの非化石証書の制度では、需要家自らが非化石証書を取得することはできず、送配電網を通じた再エネ電気の調達を望む需要家企業が、小売電気事業者を媒介せずに自ら希望する発電所を特定してRECを取得することは困難でした。需要家企業のうちには、単に再エネ電気を購入するにとどまらず、自ら再エネ発電所の新規導入に関与することで再エネ電気を新たに生み出すという「追加性」を追求するなど、より積極的に再エネ活用に取り組む企業もあり、再エネ電気に対して求めるものは様々です。自らの望む形態で自らの望む発電所からの再エネ電気の調達を合理的な価格で調達するコーポレートPPAを実現したいと考える需要家企業は、RECを自ら取得できるようにするなど、RECに対するアクセスを向上させる制度変革を強く求めています。

2. 非化石証書制度の最新動向 - FIT証書、需要家による直接購入可能に

上述のとおり、需要家の観点からは、RECの取扱い及び取引の方法がコーポレートPPAの肝となります。日本では、非化石証書が送配電網を流れる電気(系統電力)のRECとしての役割を担ってきましたが、小売電気事業者のみがこれを取得し得るという従前の非化石証書制度の下では、自らの求めるコーポレートPPAへの活用が難しいという需要家の声がありました。こうした需要家の強い声を受け、現在、非化石証書制度が改正され、RECの取引市場が大きく変容しようとしています。

経済産業省は、「非化石価値取引市場」を改革し、小売電気事業者だけでなく電力需要家がFIT電源の環境価値を表章するFIT証書を購入できる「再エネ価値取引市場」を創設します。経済産業省の有識者会議(主として、電力・ガス基本政策小委員会の下に設置された制度検討作業部会(以下「作業部会」))では、この新しく創設される再エネ価値取引市場に関連する事項について議論がされており、2021年10月12日には、これらの議論をまとめた作業部会の「第6次中間とりまとめ」の案(以下「6次中間とりまとめ案」)が公表されて、これに対する意見募集(パブリック・コメント)手続(11月11日午後5時まで)が開始されています(こちらを参照)。

世界的に脱炭素化が喫緊の課題と認識される中、企業は、自らが消費する電気や自らのサプライチェーンにおいて使用する電気が再エネ由来のものであることを求めるようになってきており、今後も、FIT制度を用いないで再エネ電気を調達するコーポレートPPAなど多様な方法でその調達を模索する企業は増加するものと見込まれます。再エネ価値取引市場は当面はFIT電源由来の証書を対象とするものですが、その創設は、系統電力について、これまで小売電気事業者しか取得することのできなかったRECを取得する道を需要家に開いてその調達方法を多様化するものです。将来的には非FIT電源由来の系統電力にも拡大される可能性もあり、同制度の在り方や運用は日本の今後の再エネ市場に大きな影響を与えるものと考えられます。

(1) 従前の非化石証書制度

送配電網を通じて需要家に届けられる電気についての環境価値は、これまでもこれを示す非化石証書によって取引がされてきました。しかし、非化石証書制度は、一定以上の販売量を有する小売電気事業者に課せられる非化石電源比率達成の義務(2030年までに原則として44%以上としなければならない。「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」(以下「高度化法」)5条1項に基づく「非化石エネルギー源の利用に関する電気事業者の判断の基準」(平成28年経済産業省告示第112号)による。)の達成を後押しすることなどを目的として、非化石電源の持つ「非化石価値」を顕在化してこれを取引可能とする制度として2018年に創設されたものであり、その経緯から非化石証書を取得できるのは小売電気事業者に限られてきました。

非化石証書は、当初は、FIT制度の支援を受ける電源についての「FIT非化石証書」のみでしたが、その後、FIT制度の支援を受けない非化石電源を対象とする「非FIT非化石証書」も2020年にスタートしています。FIT非化石証書は、FIT電源の持つ環境価値(再エネ価値、ゼロ・エミッション価値)を示す証書です。FIT電源に対する支援制度は需要家が広く負担する賦課金を原資として成り立っていることから、FIT電源の環境価値は個々の発電事業者ではなく広く需要家全体に帰属するものとされ、FIT制度の納付金・交付金に関する業務を扱う費用負担調整機関(低炭素投資促進機関(GIO)が指定されています。)が証書の売り手となり、その収入は、賦課金の額をいくらかでも低減すべく、FIT制度の運用に充てられています。FIT非化石証書は、年4回行われるマルチ・プライス・オークションにおいて小売電気事業者が落札するという方法で取引がされてきました。他方、非FIT非化石証書には、再エネ由来のものに限定した「再エネ指定あり」のものと、原子力などをその電源に含む「再エネ指定なし」のものがあり、非化石電源としての認定を受けた電源を保有する発電事業者等が証書の売り手となり、相対取引や年4回行われるシングル・プライス・オークションを通じて小売電気事業者がこれを取得することができます。なお、2022年4月から導入されるFIP制度において認定を受けるFIP電源を保有する発電事業者も、自ら証書を販売できることが想定されています。

非化石証書は、JEPX(日本卸電力取引所)に開設された小売電気事業者の口座に該当の発電量が記録されることで取引されるものであり、それ自体には電源の属性情報は付属していません。非FIT電源についての相対取引の場合には契約によって電源が特定されているのに対し、オークションを通じて取得された非化石証書は電源との結びつきが明らかでないことから、電源の属性情報は別途トラッキング制度を利用することで付与されるものとされています。

(2) 再エネ価値取引市場の創設

再エネ電気の調達を望む需要家は、前述のような非化石証書制度の下、非化石証書を取得した小売電気事業者から、こうした非化石証書によって環境価値を取得した電気を購入することにより、これを実現することができますが、自ら証書を取得することはできませんでした。経済産業省では、需要家が希望する電源についての証書を自ら直接購入したいというニーズがあることを踏まえ、非化石証書制度の変革を検討することとし、作業部会等の有識者会議においても議論がされてきました。

非化石証書制度のそもそもの意義が小売電気事業者の高度化法上の義務の達成を後押しする点にあったことも踏まえ、非化石価値取引市場は、需要家が参加してFIT証書を取引する「再エネ価値取引市場」と、これまでどおり小売電気事業者のみが買い手となって高度化法上の義務の達成に必要な証書を購入する「高度化法義務達成市場」に分けることとされました(作業部会の2021年8月26日付け第5次中間とりまとめ(こちらを参照)9、10頁)。なお、この高度化法義務達成市場のオークションは2021年8月26日、27日に行われています。

需要家の参加が想定される再エネ価値取引市場では、小売電気事業者以外の一定の要件を満たした法人も参加できるようになります。作業部会では、参加資格を過度に狭めるのは望ましくないとの意見が相次ぎ、第6次中間とりまとめ案では、参加できる需要家の要件については、JEPXの取引資格の取得要件(純資産額が原則として1000万円以上であることなど)を最低限の条件としつつ、たとえば、国内の法人格を有することを追加的に定めることとして、JEPXにおいて検討をすることとされました(第6次中間とりまとめ案10頁参照)。また、一定の規律の下に仲介事業者が再エネ価値取引市場に参加することを許容し、市場に自ら参加しない需要家企業に対しても、仲介事業者が市場で調達したFIT証書を譲渡できるものとされています(同11から14頁)。このほか、再エネ価値取引市場での取引をこれまでのFIT非化石証書の市場と同様にマルチ・プライス・オークションとすること(同5頁)や、新制度開始当初の暫定的措置として最低価格を0.3円/kWhに設定すること(同8頁)が示されています。

電源の属性情報は、これまでどおり非化石証書とは別個にトラッキング制度を通じて付与されます。従前はFIT電源の属性情報の付与にはFIT発電事業者の同意が必要とされてきましたが、今後はこれが不要とされる方針です。もっとも、取得した属性情報を対外的に公表するにはFIT発電事業者の同意を得る必要があると整理されており、JEPXの規程においても同様の規律が定められ、これに違反した者に対してはJEPXが取引停止等の措置を取ることができるものとされることが見込まれます。

需要家企業は、こうして取得したFIT証書について、地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号)における排出量の報告やスコープ2ガイダンスへの準拠のために活用することが考えられます(第6次中間とりまとめ案の16頁)。最初の再エネ価値取引市場オークションは、2021年11月19日から26日に実施される予定です。

(3) 今後の展望

経済産業省では、コーポレートPPAなどのニーズを持つ需要家にとって使いやすい制度を目指す方針を示しています。政府は、2021年6月18日に閣議決定した2021年度の「規制改革実施計画」(こちらを参照)において、再エネ価値取引市場について、2022年度(2022年4月から2023年3月)までの検討・結論を目指し、「FIT電源だけでなく、非FIT再生可能エネルギー電源についても、同市場で取引する方策について検討し、速やかに結論を得ることを目指す」としており(54頁)、今後、非FIT電源(FIP電源を含む。)について、発電事業者と需要家との間で証書取引を可能とする可能性も含めて検討されることも考えられます。このほか、自己託送の要件を緩和してオフサイトからの送配電網を通じた再エネ電気(非FITかつ非FIP)の調達を容易にするべく、電気事業法施行規則及び「自己託送に係る指針」の改正も検討しており、こちらについても現在意見募集手続が行われています(こちらを参照。10月27日まで)。

FIT制度に関わる改正に加えて、同制度の支援を受けない再エネプロジェクトのための制度整備・変革も進められています。FIT後についての再エネ施策を十分に注視するとともに、必要に応じて事業者の意見を届けていくことが、いっそう重要性を増しています。

3. Solar Energy Future Japan 2021でのコーポレートPPAについてのパネル・ディスカッション

2021年10月12日及び13日に開催されたSolar Energy Future Japan 2021のカンファレンスで、弊所弁護士の若林美奈子が、コーポレートPPAについてのパネル・ディスカッションのモデレーターを務めさせていただきました。

同パネル・ディスカッションは「Possibilities and Difficulties of Corporate PPA in Japan (日本におけるコーポレートPPAの可能性及び困難性)」というタイトルで行われ、アマゾンウェブサービスジャパン、みんな電力、オリックス及びジンコソーラージャパンから登壇された各パネリストと共に、それぞれのコーポレートPPAの取り組み状況、日本でのコーポレートPPA導入にあたって直面している問題点、日本政府に求めることなどについて非常に活発かつ有意義な意見交換をさせていただきました。パネル・ディスカッションには多くの聴講者にご参集いただき、マーケットにおけるコーポレートPPAに対する注目度の高さが窺われました。