Japan Renewables Alert 55


August.16.2021

English Version

Today’s Topics

  1. 太陽光:廃棄等費用積立ガイドライン案、パブコメに
  2. 太陽光・風力:エネ庁、法アセスの事業の一連性に関し新たな文書制定へ
  3. 洋上風力:セントラル方式の確立に向けた動向等
  4. 洋上風力:世界の洋上風力の動向に関する弊所レポート発表

政府が再エネの一層の導入を図る中、再エネ関連の制度については絶えず新たな動きが見られます。現在、弊所Japan Renewables Alertにおいても複数回取り上げてきた解体等積立金制度に関し、ガイドライン案が公表され、意見募集(パブリックコメント)手続に付されています。また、太陽光発電所や風力発電所の建設に当たって要求される環境アセスに関しても、何をもって1つの「事業」と見るかに関しての考え方を整理した文書が新たに示される予定であり、現在、その案について意見募集手続が行われています。前者は、既設・未設を問わず、FIT/FIP認定を取得して事業を行う太陽光発電事業者に広く影響がありますし、後者は、太陽光や風力のプロジェクトの開発において避けて通ることのできない事項です。再エネに関係する事業者には、その内容を把握し適切に対応することが求められます。

また、洋上風力に関しては、日本版セントラル方式の確立に向けて、国は、2021年7月30日、海域調査事業を行う3海域を選定して公表しました。一般海域の洋上風力発電については、2019年4月1日施行の「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(平成30年法律第89号)の下、国が洋上風力発電を行う海域を「促進区域」として指定し、これを行う事業者を入札で決定するという制度が実施されていますが、洋上風力事業の事業性を検討する前提となる海域調査(風況調査や環境影響評価のための先行的な調査など)については、各事業者が調査を行っています。国では、効率的な洋上風力推進のためには、国や自治体が先行的な調査や系統容量の確保に早期から関与する「セントラル方式」の活用が望ましいとの考えの下、現在、日本版セントラル方式の確立に向けた取組みを行っており、その1つとして、調査事業者に委託して海域調査を行い調査結果を自治体や事業者に提供するというプロジェクトのため3海域が選定されたというものです。

本稿では、めまぐるしく動く再エネ関連制度のうち、今まさにパブリックコメントが行われている上記各事項及び洋上風力の今後につながる上記事項について、その概要をお届けします。また、弊所が先日発表いたしました「世界の洋上風力の動向に関するレポート」もご紹介しておりますので、国内における洋上風力の開発のご参考としてご参照いただければと存じます。

なお、本稿では、電気事業法(昭和39年法律第170号)を「電事法」と、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号)を「再エネ特措法」と、同法施行規則(平成24年経済産業省令第46号)を「再エネ特措法施行規則」といいます。

1. 廃棄等費用積立ガイドライン案、パブコメに

2021年7月16日、廃棄等費用積立ガイドラインの案(以下「ガイドライン案」)が公表され、これについての意見募集手続が開始されました(こちらを参照。2021年8月15日まで受付け)。

これまでも弊所Japan Renewables Alertにおいて取り上げてきたとおり(Japan Renewables Alert 4344及び52をご参照ください。)、解体等積立金制度は、再エネ特措法の改正(2020年6月12日公布の「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」(令和2年法律第49号)による改正)により、2022年から開始されることとなっており、2021年6月30日には、再エネ特措法施行規則を改正して解体等積立金制度の詳細を盛り込む経済産業省令(令和3年経済産業省令第56号)のほか、2つの経済産業省告示(令和3年経済産業省告示第133号、同第134号)が制定されています(なお、これらの省令及び告示の案についての意見募集手続(弊所Japan Renewables Alert 52をご参照ください。)において寄せられた意見に対する回答は2021年6月29日に公表されています(こちらを参照)。)。

解体等積立金制度は、FIT/FIP認定を受けた事業用太陽光プロジェクトについて発電設備の廃棄等に必要となる費用を確保するため、事業者に対し、原則として外部積立を義務付けるとともに、一定の要件を満たす場合に外部積立以外の方法(内部積立)を認める制度です。2019年に経済産業省において同制度の検討を行うことを目的としたワーキンググループ(太陽光発電設備の廃棄等費用の確保に関するワーキンググループ(以下「廃棄等費用WG」)を設置し、同年12月にはその議論をまとめた中間整理が公表されており、この内容を踏まえて法令制定がされてきています。内部積立を利用するための要件や外部積立の金額の水準については、上記省令及び告示によって示されていますが、経済産業省資源エネルギー庁では、更にガイドラインを制定して、内部積立の要件の解釈や内部積立によって確保すべき金額水準等を示すとしていたところであり、ガイドライン案はこれらの点について内部積立の要件等の解釈を示しています。

たとえば、内部積立の要件としては、改正後の再エネ特措法施行規則では、(1)「再生可能エネルギー発電事業を調達期間の終了後も継続するために必要な措置を講じ、当該措置を公表するものであること」(5条1項8号の2イ)、(2)「再生可能エネルギー発電事業と地域社会との共生に向けた取組を講じ、当該取組の状況を公表するものであること」(同号ロ)が要件として挙げられているところ、ガイドライン案では、(1)に関し、例として、「調達期間終了後の売電方法等に関する検討状況等を事業計画等に記載する」、「調達期間終了後の発電所の用地確保等に関する取組状況を事業計画等に記載する」などの方策が考えられるとし、(2)に関し、「事業の理解促進等を目的とした取組」や「事業実施地域等における環境教育等の活動への協力」などが考えられるとして例を示しています(25頁)。

さらに、改正後の再エネ特措法施行規則では、内部積立が許容されるための要件として、50kW以上の設備であること(同号ハ)、認定事業者が原則として電事法上の発電事業者(電事法上の届出が必要です。)に該当すること(同号ニ)、積立ての額及び時期が一定水準を満たす必要があること(改正後の再エネ特措法施行規則6条の2第1号、2号)、毎年、積み立てられている内部積立金の額が公表されることに同意すること(同条5号)、内部積立要件のいずれかが充足されなくなった場合には外部積立を行うことに同意すること(同条6号)のほか、一定の方法によって資金の確保がされていること(同条3号)が要求されています。こうした内部積立の方法としては、(i)金融機関との契約の下で一定の要件を満たす管理の下に積立てを行う方法(プロジェクト・ファイナンス型)か、(ii)認定事業者又はその親会社等若しくは子会社等が上場会社であり、かつ、内部積立金に充てる資金をその計算書類等に計上して積立てを行う方法(上場会社型)のいずれかによることが必要ですが(同条3号)、ガイドライン案は、こうした要件について、具体的な内部積立基準額の点を含めて説明しています(24頁以下)。

加えて、改正後の再エネ特措法施行規則では、廃棄等費用WGの議論を踏まえて、内部積立の1形態として、積立て以外の方法により資金を確保することも可能とされているところ(改正後の再エネ特措法施行規則6条の2第4号)、ガイドライン案は、その具体的方法として、一定の基準を満たす保険又は保証により資金を確保する方法を挙げています。ガイドライン案は、この要件を満たすものと解釈できる基準として、当該保険又は保証を提供する者がA-又はA3以上の信用格付けを有する金融機関又は保険会社であることや、保険・保証の内容を公表することなどを挙げています(30頁)。

なお、既認定案件について内部積立を希望する事業者は変更認定申請をして内部積立の可否の審査を受ける必要があるところ、ガイドライン案では、「内部積立てへの変更認定申請を行い、変更認定を受けたとしても、そのことのみをもって、調達価格の変更を伴う変更認定とはならない(FIT 認定を受けた後、運転開始前の案件を含む。)。」との記述がされています(31頁)。また、今回の意見募集の対象となるガイドラインには含まれていませんが、解体等積立金制度はFIP認定を受けた太陽光プロジェクトにも適用される予定ですので、今後、再エネ特措法施行規則やガイドラインには、FIP電源の場合における実施の細則や運用の在り方についての記述が追加されることが予想されます。

2. 法アセスの事業の一連性に関し新たな文書制定へ

発電所の設置等のための工事については、一定規模以上のものは環境影響評価法(平成9年法律第81号)に基づく環境影響評価(以下「法アセス」)の対象とされていますが、これに関し、2021年7月30日、発電所に関する法アセスを所管する資源エネルギー庁産業保安グループ電力安全課から、「太陽電池発電所・風力発電所に係る環境影響評価法及び電気事業法に基づく環境影響評価における事業の一連性の考え方について 」という文書(以下「一連性の考え方」)の案が公表され、意見募集が開始されました(こちらを参照。2021年8月30日(31日午前0時)まで受付け)。

環境影響評価法は、一定の「事業」を法アセスの対象としています。同法は「事業」を「特定の目的のために行われる一連の土地の形状の変更……並びに工作物の新設及び増改築」と定義しており(2条1項。下線は弊所による。)、この事業の「一連性」については、工事の実施場所や時期だけでなく、当該事業の目的が同一であり、かつ、構想及び決定の時期が同一か否かなどを踏まえて、総合的に判断されるものと解釈されています。電力安全課では、法アセスにおける1つの「事業」についての上記解釈を踏まえ、発電所の工事については「同一発電所」に係る「同一工事」といえるものであればこうした「一連性」が認められるとしています。電力安全課では、以上の考え方に基づき、「工事計画届出等又は環境アセスメントの要否の判断に係る「同一発電所」及び「同一工事」に該当するか否かの判断の目安について」(2013年4月4日付け。こちらを参照。以下「判断の目安」)を定めて、上記の「同一発電所」及び「同一工事」の判断の考え方を示しています。

もっとも、太陽電池発電所及び風力発電所の開発に参画する事業者数が増加し発電所の構造等が多様化する中、現行の「判断の目安」の記述だけでは必ずしも十分ではないとの指摘もされています。そこで、電力安全課では、判断の目安をより精緻化・明確化することで事業の「一連性」を判断する目安を明らかにするため、「一連性の考え方」を発出することとしたものです。なお、背景としては、太陽電池発電所のうちには法アセスの規模要件に該当しないよう意図的に案件を分割して「アセス逃れ」をしている事例があるとの認識があると考えられます(2021年6月15日開催の経済産業省の審議会の議事録(こちらを参照)22頁参照)。

「判断の目安」においては、「同一発電所」か否かについて(i)同一構内又は近接性、(ii)管理の一体性、(iii)設備の結合性を踏まえて判断し、その上で「同一工事」該当性を判断することとしています。「一連性の考え方」案では、「同一発電所」該当性を判定するための各要素のうち、(i)同一構内又は近接性に関し、太陽電池発電所の設備については発電設備間に一定の距離を置くなど多様な配置が可能であることを踏まえ、「さくやへい等で区切られた「同一構内」にある場合は当然として、(「同一構内」とは言えなくとも)互いの「近接性」が認められる場合には本要素を満足していると判断される」と説明しています。「一連性の考え方」案は、「近接性」を具体的な数値で記述することは困難としてこれを避けつつ、「太陽電池発電所については、例えば、同一市町村内に設備が設置されている場合や、隣接する市町村にわたって設備が設置されている場合であってそれらが大きく離れていないときを一つの目安としつつ、個別の事業の状況を見極めながら、判断していくことが適切である」と説明しています。

さらに、(ii)管理の一体性という要素に関し、「一連性の考え方」案では、管理者が同一か否かを判断するに当たっては、「電事法における電気工作物の設置者といった法的・外形的な意味での管理主体のみならず、事業の管理運営を行う者や当該事業による利益が帰属する先としての「実質的な」管理主体を同定することが必要」としています。その上で、開発途上で複数事業に分割する場合、「実態としては、譲渡先企業が譲渡元企業と資本関係等が継続していたりする場合や、分割された各事業の関係者……が共通である場合など、「実質的な」管理主体が同一であり、「管理の一体性」があると認められる可能性がある」とした上で、事業分割により管理の一体性がなくなったというのであれば、行政庁がその旨の判断をできるよう「事業者において合理的な説明を行う必要がある」としており、留意が必要です。

3. セントラル方式の確立に向けた動向等

経済産業省資源エネルギー庁及び国土交通省港湾局は、2021年7月30日、「洋上風力発電の地域一体的開発に向けた調査研究事業」を実施する海域として、3海域(北海道岩宇及び南後志地区沖(着床式)、山形県酒田市沖(着床式)、岩手県洋野町沖(浮体式))を選定し公表しました(こちらを参照)。

大規模かつ多くの利害関係者が存在する洋上風力事業の開発に関し、冒頭のとおり、国は、「セントラル方式」、すなわち、初期段階から政府や自治体が関与し、迅速かつ効率的に風況等の調査を行うとともに適時に系統確保等を行う仕組みが円滑な洋上風力の導入のために有効であるとしています。旧来の制度の変革がなかなか進まなかったこともあり、現行の一般海域における入札制度は、政府機関主導での系統確保や調査の仕組みがないまま洋上風力の入札制度がスタートしていましたが、今般、セントラル方式での案件形成を確立するのに必要な知見を得るため、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託する調査事業者に委託して海域調査を行い、調査結果を自治体や事業者に提供するというプロジェクトを計画しており、こうしたプロジェクトの対象として上記3海域が選定されました。今後運転開始に至ればセントラル方式の発想の下での調査が試みられた日本で最初の洋上風力プロジェクトとなると期待されます。

このほか、系統確保に国が一定程度関与する仕組みも検討されており(弊所Japan Renewables Alert 54をご参照ください。)、同じく2021年7月30日に、この仕組みを前提した変更を盛り込んだ「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域指定ガイドライン」の改訂がされました(こちらを参照。なお、この改訂案についての意見募集については、弊所Japan Renewables Alert 54をご参照ください。)。

さらに、2021年8月11日、秋田県八峰町及び能代市沖を新たに促進区域として指定する案が公告されました(こちらを参照)。促進区域の指定に当たっては、これに先立ち、その旨の公告及び指定しようとする理由を記載した書面の縦覧が求められます。同海域は昨年「有望な区域」に選定されていましたが、今回、一歩進んで促進区域に指定されることが見込まれます。

4. 世界の洋上風力の動向に関する弊所レポート

弊所は、洋上風力における先進地域である欧州を含む世界各地で長年にわたり洋上風力プロジェクトに携わっており、グローバルに培った知見・経験を総動員して皆様をサポートする体制を整えています。2021年7月27日に、世界各地の弊所オフィス及び提携するローカル事務所が協力して、世界の洋上風力の現状と今後を概観するレポート「Orrick Offshore Wind Energy Update and Outlook」2021年版を発表しましたのでご参照ください(英語のみ。こちらのリンクをクリックしてご覧ください。)。

5. 今後の展望

国は、2020年10月、2050年までにカーボン・ニュートラル社会を実現することを宣言し、2021年4月には、2030年度までに温室効果ガス排出量を2013年度比46%削減することを目標として掲げました。こうした目標は再エネの一層の導入なくしては実現し得ないものであり、国にも一層の再エネ推進施策が求められます。一方で、再エネ導入を推進するためには社会からの強い支持を幅広く得ることが不可欠であるところ、太陽光発電の導入が進む中でその発電設備の廃棄に対する世論の不安に応えて解体等積立金制度が導入され、さらに、適正な環境影響評価の実施に対する社会的要請も高まっています。

政府は再エネの推進という方針を強く打ち出し、この方針に沿って旧来の制度の変革を推し進めていますが、再エネに関する制度及びその運用は、社会の多様な利害関係者の意見や国際動向等も踏まえつつ絶えず変動しており、事業者には、制度改革に関する動向を見極めるとともに、効果的な意見の発信も含めた適時・適切な対応を取ることが求められています。