Japan Renewable Alert 52


March.01.2021

English Version

Today’s Topics

  1. 解体等積立金制度等に関するパブコメ手続
  2. 続・FIP制度の詳細
  3. 新省令等案における他の事項
  4. 今後の展望

再エネ特措法は、2020年6月12日に公布された「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第49号。以下「エネルギー供給強靭化法」)により大きく改正されます。特に、(1)FIP制度、(2)解体等積立金制度、(3)認定失効制度という新たな制度の導入(2022年4月1日施行)は、日本における再エネ事業に大きな影響を与える重要なものです(Japan Renewable Alert 44をご参照ください。)。

上記各制度のうち、(3)認定失効制度については、既に関連する経産省令(令和2年経産省令第85号)が2020年12月1日に公布されています(こちらについてはJapan Renewable Alert 51の1をご覧ください。)。2021年2月8日には、(2)解体等積立金制度に関する事項を含む経産省令及び経産省告示の案(以下「新省令等案」)が公表されて、同年3月9日までの意見公募(パブリックコメント)手続に付されています(こちらを参照)。(1)FIP制度に関しても、議論が進められてその詳細が明らかになってきています。2021年2月26 日には、上記(1)から(3)の諸制度についての経産省の有識者会議(再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会と再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会との合同会議。以下「合同会議」)における検討の内容をまとめた報告書(「エネルギー供給強靭化法に盛り込まれた再エネ特措法改正法に係る詳細設計」。以下「合同会議報告」)が示されました(こちらを参照)。

本稿では、解体等積立金制度及びFIP制度の現在の議論の概要をお伝えします。

なお、本稿では、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号)を「再エネ特措法」と、同法施行規則を「特措法施行規則」と、経済産業省を「経産省」と、経済産業大臣を「経産大臣」とそれぞれ称します。

1. 解体等積立金制度等に関するパブコメ手続開始

解体等積立金制度は、FIT/FIP期間終了後の発電設備の適正かつ確実な処理を図るため、経産大臣が指定する区分の電源に対し、そのための費用を「解体等積立金」として積み立てることを義務付ける制度です(Japan Renewable Alert 43参照)。積立ては、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の下に積み立てる外部積立てが原則であり、一定の要件を満たした場合にのみ自己名義の預金口座に積み立てるなどの方法(内部積立て)が許容されます。

新省令等案では、経産省の有識者会議(太陽光発電設備の廃棄等費用の確保に関するワーキンググループ。以下「廃棄等費用WG」)での議論のとおり、10kW以上の太陽光を解体等積立金制度の対象と定めることとしています。具体的な積立金額の考え方については、廃棄等費用WGの中間整理(2019年12月10日公表。こちらを参照。以下「中間整理」)及び調達価格等算定委員会(以下「算定委」)の2021年度以降の調達価格等についての意見(2021年1月27日公表。こちらを参照。以下「算定委意見」)で示されています。外部積立てにおいては、適用調達価格に応じて定められた1kWh当たりの単価(解体等積立基準額)に電力量を乗じた額を毎月積み立てることとされており、新省令案は、中間整理及び算定委意見の内容に沿って下表のとおりの金額を示しています。

認定年度

FIT価格(調達価格)

解体等積立基準額

2012年度

40円/kWh

1.62円/kWh

2013年度

36円/kWh

1.40円/kWh

2014年度

32円/kWh

1.28円/kWh

2015年度

29円/kWh

27円/kWh

1.25円/kWh

2016年度

24円/kWh

1.09円/kWh

2017年度

入札対象外

21円/kWh

0.99円/kWh

第1回入札対象

落札者ごと

0.81円/kWh

2018年度

入札対象外

18円/kWh

0.80円/kWh

第2回入札対象

(落札者なし)

-

第3回入札対象

落札者ごと

0.63円/kWh

2019年度

入札対象外

14円/kWh

0.66円/kWh

第4回入札対象

落札者ごと

0.54円/kWh

第5回入札対象

落札者ごと

0.52円/kWh

2020年度

10kW以上50kW未満

13円/kWh

1.33円/kWh

50kW以上250kW未満

12円/kWh

0.66円/kWh

250kW以上

落札者ごと

0.66円/kWh

2021年度

10kW以上50kW未満

12円/kWh

1.33円/kWh

50kW以上250kW未満

11円/kWh

0.66円/kWh

250kW以上

落札者ごと

0.66円/kWh

 

新省令等案では、このほか、内部積立ての条件についても、改正後の特措法施行規則の内容が示されています。具体的には、発電設備に関する一定の要件等を満たすことなどに加え、「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電事業を調達期間の終了後も継続するために必要な措置を講ずるものであり、当該措置を公表すること」や「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電事業と地域社会との共生に向けた取組を講ずるものであり、当該取組の状況を公表すること」が示されています。

このほか、合同会議報告では、内部積立ての金額水準について中間整理の考え方を踏襲することなど、新省令等案で触れられていない点も含めて、改めて解体等積立金制度に関する議論がまとめられています。

2. 続・FIP制度の詳細

2022年度に導入されるFIP制度は、経産大臣による認定(FIP認定)を受けた再エネ発電事業者に対し、市場取引(取引所取引又は相対取引)により得られる収入に加えて、一定のプレミアムを付与する制度です。

2022年度以降、どの電源をFIT制度の対象とし、どの電源をFIP制度の対象とするかについては、経産大臣が算定委の意見を尊重して決定することとされています。2021年1月27日付け公表の算定委意見では、FIP制度導入初年度となる2022年度におけるFIT制度とFIP制度の対象について算定委の結論が示されました。これによると、2022年度の太陽光については、1,000kW以上がFIP制度(入札)の対象とされ、50kW以上1,000kW未満はFIT制度(一定規模以上は入札)とFIP制度(非入札)のいずれかを選択可能とし、50kW未満はFIT制度の対象とするとされています。また、2022年度の風力については、FIP制度のみの対象とする区分は設けず、50kW以上でFIT制度(一定のものは入札)とFIP制度(非入札)のいずれかを選択可能とし、50kW未満についてはFIT制度の対象とすることとされました。なお、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号。以下「洋上新法」)が適用される洋上風力の今後の取扱いについては、特段の言及はありません。

プレミアムの金額に関わる点を含めてFIP制度の詳細については、合同会議で議論がされて合同会議報告にまとめられています。

FIP制度におけるプレミアムの単価(kWh当たりの価格)は、FIP価格(基準価格)から参照価格(市場価格に基づいて算定された値)を差し引いて算定されます(プレミアム単価=FIP価格-参照価格)。FIP制度の対象となる電源や毎年度のFIP価格は、経産大臣が算定委の意見を尊重して決定することとされ、他方、参照価格は、卸電力取引市場における価格を基礎としつつ、経産省令で算定方法を定めることとされています。

合同会議では、参照価格(kWh当たり)の算定方法について議論がされ、その結果、算定価格は、指標となる市場価格に環境価値相当額を加えた上でバランシングコスト分を差し引くこととされています(参照価格=市場価格+環境価値相当額-バランシングコスト分)。すなわち、プレミアムの値には、バランシングコスト分が加算される一方、環境価値相当額が除かれることになります(なお、FIP発電事業者は、別途、環境価値を表章する非化石証書(非FIT)を小売電気事業者に販売して収入を得られます。)。また、指標となる市場価格の算定方法についても詳細な議論がされ、2021年1月13日の合同会議(こちらを参照)では、過去の実績値を用いてその方針に基づいて算定した試算も示されています(こちらを参照)。

さらに、過去にFIT認定を受けた50kW以上の案件についても、事業者が希望すれば、同水準の価格でFIP制度に移行できることとされされています(算定委意見8~10頁、合同会議報告4頁)。アグリゲーションの活性化を通じて再エネの市場統合を促す観点から、経産省では、FIT制度からFIP制度への移行を促すインセンティブを設定することとしています。変動性電源(太陽光、風力)の上記バランシングコスト分の値について、FIP制度開始当初は通常のバランシングに要する費用の目安に上乗せをすることとし、2022年度は1円/kWhとし、2024年度までは毎年0.05円/kWhずつ、以降は0.1円ずつ低減させて最終的にはバランシングに要する費用の目安分のみとすることで、早期の移行を促すこととしています(合同会議報告9~10頁)。

3. 新省令等案における他の事項

新省令等案では、前記1の解体等積立金制度に関する事項のほか、以下のような事項も含まれています。

まず、新省令等案では、算定委意見に沿って、2021年度のFIT価格やFIT入札制度についての方針が示されています。たとえば、2021年度は、250kW以上の太陽光及び陸上風力並びに一定のバイオマスについてはFIT入札の対象とされること、太陽光については4回、陸上風力及びバイオマスについては1回の入札を実施すること、他方、洋上風力(洋上新法適用対象外のもの)についてはFIT入札の対象としないこととされました。また、これまではFIT入札の上限価格は公表されていませんでしたが、2021年度は、太陽光と陸上風力のFIT入札における上限価格は公表されることとされており、その金額は下表のとおりです。なお、2021年度FIT入札のスケジュールについては、算定委意見において示されています。

 

太陽光第1回
(通算第8回)

太陽光第2回
(通算第9回)

太陽光第3回
(通算第10回)

太陽光第4回
(通算第11回)

陸上風力

供給上限価格

11.00円

10.75円

10.50円

10.25円

17.00円

 

また、新省令案では「指定電気事業者制度」の廃止も盛り込まれています。現在、一般送配電事業者が、エリアにおける需給調整のための再エネ電源の出力制御(以下「需給調整出力制御」)を無補償でできる時間には、上限時間(風力であれば年間720時間、太陽光であれば360時間)が設けられており、経産大臣の指定を受けた一般送配電事業者のエリアでのみ、上限時間の制限なく需給調整のための出力制御を無補償で行い得ることとされています。新省令案等は、この指定電気事業者制度を廃止し、新規に接続する電源について、全国一律に上限時間なく無補償で需給調整出力制御を行い得ることとするものです。

4. 今後の展望

現在、再エネの変革期の中にあって、大小様々な法令等の改正が議論されています。上記のほかにも、大きな変革に繋がる可能性があるものとして、経産省では、需要家が、発電事業者から、直接、非化石証書や再エネ電気を購入する可能性について検討しており、2021年の夏頃までに一定の取りまとめを行うという予定を示しています(現在の電気事業法の下では、需要家は小売電気事業者から電気を購入することが予定されており、また、非化石証書を購入した小売電気事業者から環境価値付きの電気を購入することはできるものの、非化石証書を直接購入することはできません。)(2021年2月3日開催の内閣府の有識者会議(こちらを参照)の資料7-1参照)。非化石証書の点は、FIP制度における参照価格の考え方にも影響を与える可能性があり、合同会議報告でも、「非化石価値取引制度は、需要家の環境価値に対するニーズの高まりに伴い、今後見直しが進められる可能性もある」ことから、「必要に応じて見直しを行う」こととされています(合同会議報告8頁)。

また、2020年12月末頃から2021年1月にかけて、卸電力取引市場の価格が全時間帯で高騰し、その状態が約1か月にわたって継続するという世界初ともいわれる事態が発生しました。これは、卸電力取引所への買い入札量が2020年12月26日に大きく減少したことを受けて小売電気事業者による買い入札価格の上昇が続いたことによるものであり、再エネ電気の供給に力を入れてきた多くの新規小売電気事業者に大きな打撃を与え、自由化の下で市場連動型の電気料金を選択していた一般消費者に衝撃を与えただけでなく、そもそもの制度設計の妥当性に疑義を唱える見解も出され、電力市場における情報公開の在り方などを問う声も上がっています。FIP制度における市場価格の参照方法の議論にも影響する可能性があり、合同会議報告でも、今回の市場価格高騰に対する検証の結果を踏まえて、「FIP 制度における卸電力取引市場の価格の参照方法についても、必要に応じて改めて検討することとする」とされています(合同会議報告7頁)。

様々な改革が同時並行的に進められ、新たな課題も生じる中、再エネ関連の制度全体を俯瞰しつつ、引き続き関連する規制に注意を払うことが求められています。