Japan Renewable Alert 51


January.05.2021

Japan Renewable Alert 44でお伝えしたとおり、「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第49号。以下「改正法」)による「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(平成23年法律第108号。以下、「再エネ特措法」といい、改正法による改正後のものを「新特措法」といいます。)の改正により、認定失効制度及びFIP制度が導入されるところ(2022年4月1日(以下「施行日」)施行)、これらの新制度の詳細がだんだんと明らかになってきました。本号では、事業者及び投資家の皆様の関心の高いこれらの制度に関する議論の概要をお届けします。

以下、経済産業省を「経産省」、経済産業大臣を「経産大臣」、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法施行規則(平成24年経済産業省令第46号)を「再エネ規則」、環境影響評価法(平成9年法律第81号)に基づく環境影響評価手続を「法アセス」といいます。

1.   認定失効制度

(1)   失効期間

認定失効制度は、FIT/FIP認定から一定の期間(以下「失効期間」)以内に運転開始に至らない案件について、失効期間の経過をもって当該認定が失効するという制度です(Japan Renewable Alert 49及びJapan Renewable Alert 50をご参照ください。)。弊所では、2020年6月の改正法公布後、早期に失効期間を明示することを求める事業者の声を意見書にまとめて経産省に提出したところ、認定失効制度に関しては他の改正事項に先立って議論が進められ、2020年12月1日、再エネ規則を改正して失効期間を定める経産省令(以下「改正省令」)が公布されました。改正省令に関しては、その概要が2020年9月7日に公表されて同年10月6日までの意見公募手続に付され、同年11月6日にこれに対する回答(以下「パブコメ回答」)が公表されています(こちらを参照)。また、改正省令が公布された2020年12月1日には、経産省のウェブサイトにFAQ(以下「FAQ」)が掲出されました(こちらを参照)。

改正省令において定められた失効期間は、これまでお伝えしているとおり、運転開始期限日(あるいは施行日)から1年後の時点において一定の進捗が見られれば失効期間を延長するという考えを基本としています。そして、進捗を示すメルクマールとして、系統連系工事着工申込書の一般送配電事業者等による受領等が定められています。改正省令による改正後の再エネ規則(以下「新規則」)によると、太陽光を例に取れば、失効期間は以下のとおりであり、基本的には、運転開始期限日が施行日以後のものがa.に、運転開始期限日が施行日前のものがb.に該当します。

  1. まず、事業用太陽光についての原則的な規律は、下記b.の場合を除き、以下のとおりです(新規則13条の2第1項1号)。

    1. 認定日から起算して4年(認定申請時に法アセス中であれば6年)後の日までに、系統連系工事着工申込書を該当一般送配電事業者等が受領していない場合には、4年(認定申請時に法アセス中であれば6年)
    2. 認定日から起算して4年(認定申請時に法アセス中であれば6年)後の日までに、系統連系工事着工申込書を該当一般送配電事業者等が受領した場合には、6年(認定申請時に法アセス中であれば8年)
    3. 認定日から起算して4年(認定申請時に法アセス中であれば6年)後の日までに、(1)系統連系工事着工申込書を該当一般送配電事業者等が受領し、かつ、(2)(A)工事計画届出が不備なく受領されたこと又は(B)法アセスの準備書に対する経産大臣の勧告(若しくは勧告不要の通知若しくは勧告までの期間を延長する旨の通知)がされたことを経産大臣が確認した場合には、23年(認定申請時に法アセス中であれば25年)
  2. 次に、2022年4月1日までに認定から3年を経過している太陽光案件の失効期間は、原則として、以下のとおりです(改正省令附則2条1項)。なお、2017年3月31日までに認定を受けて2016年7月31日までに接続契約を締結した太陽光案件のうち、系統連系工事着工申込みを2023年4月1日以降に提出する案件については更に別途規定されています(改正省令附則2条2項)。

    1. 2023年3月31日までに、系統連系工事着工申込書を該当一般送配電事業者等が受領していない場合には、同日までの期間
    2. 2023年3月31日までに、系統連系工事着工申込書を該当一般送配電事業者等が受領した場合には、2025年3月31日までの期間
    3. 2023年3月31日までに、(1)系統連系工事着工申込書を該当一般送配電事業者等が受領し、かつ、(2)(A)工事計画届出が不備なく受領されたこと又は(B)法アセスの準備書に対する経産大臣の勧告(若しくは勧告不要の通知若しくは勧告までの期間を延長する旨の通知)がされたことを経産大臣が確認した場合には、2042年3月31日までの期間

(2)   計画の変更による影響

経産省は、系統連系工事着工申込書提出後に変更認定申請をした場合について、この場合も系統連系工事着工申込書の効力は維持され、再提出は不要であって、運転開始期限から1年を経過した後に変更認定申請をしても、それをもって認定が失効となることはないとしています(パブコメ回答17番、33番、FAQ No. 1-3)。もっとも、系統連系工事着工申込書の提出に先立って設備設置場所の土地の使用権原の確保が完了しているなどの要件は充足されていなければならず(新特措法13条の3)、こうした要件が充足されていないことが事後的に判明すれば、失効期間の延長が否定されて認定が失効する可能性があるとされており(パブコメ回答33番、FAQ No. 1-3)、設備設置場所への地番の追加によって失効期間の延長が否定される可能性を示唆しています。

また、経産大臣の確認は、工事計画の軽微な変更によって取り消されるものではないとしつつも、「地番の追加や発電設備の設計の⼤幅な変更などFIT/FIP事業計画の変更にまで及ぶような変更が軽微とはいえない」ものについては、確認の取消しの可能性があるとされています(パブコメ回答48番、61番、63番、FAQ No. 2-1)。確認の取消要件については改正省令に規定はなく、何が取消事由に該当するのかは不明確です。この点について弊所が経産省の担当部署に照会したところ、確認を取り消すかどうかは個別のケースごとに判断するものであり、一般的な確認取消要件を経産省令その他の文書により示すことは予定していないとのことでした。

どのような変更が認定の失効に結びつくのか不明確な上記のような規律は、プロジェクト・ファイナンスの実現に困難を生じさせ、案件の進捗を阻害する可能性が懸念されます。合理的な制度運用がされるよう、引続き適切な働きかけを行う必要があると考えます。

(3)   系統連系工事着工申込書の提出等の時期

さらに、系統連系工事着工申込書の提出や経済産業大臣による確認の申請が、いつから可能となるのかについては、明らかにされていません。経産省では、施行日(2022年4月1日)より前から系統連系工事着工申込書の提出ができるようすることを予定していますが(パブコメ回答27番、FAQ No. 1-1)、具体的な時期については示されていません。

2.   FIP制度について

(1)   FIP制度の概要

FIP制度は、経産大臣の認定を受けた再エネ発電事業者が、通常の市場取引による売電収入に加えて、一定のプレミアム(新特措法では「供給促進交付金」と称されます。)の交付を受けられる制度です。

2022年度以降はFIP制度とFIT制度が併存することとなり、各制度を利用可能な電源の区分等については、調達価格等算定委員会(以下「算定委」)の意見を尊重して経産大臣が定めます(新特措法2条の2第1項、4項、3条1項、8項)。また、認定の取得を入札で決める入札制の対象とするか否かについても、算定委の意見を尊重して経産大臣が定めます(新特措法4条1項、2項)。

(2)   FIP制度におけるプレミアム

FIP制度におけるプレミアムは、予め定められた基準価格(FIP価格)と参照価格(市場価格を基準とする価格)の差額に売電電力量を乗じて算出されます。

2020年11月27日の算定委では、FIP価格はFIT価格と同水準、FIP期間はFIT期間と同じとするとの基本的な方針が示されています。また、参照価格の算定方法についても、2020年10月26日及び同年12月7日に開催された再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会と再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会の合同会議で議論がされ、方向性が定まりつつあります。

(3)   FIP制度の対象電源

2020年11月27日の算定委では、太陽光及び風力に関する議論がされましたが、そこでは、2022年度に一定規模以上の太陽光及び風力をFIP制度の対象とする方針が事務局から示され、委員らの賛同を得ました。

具体的には、2022年度に認定を受ける太陽光については、1,000kW(1MW)以上のものをFIP制度の対象とし、かつ、入札制の対象とすることとされました。また、太陽光のうち50kW以上1,000kW未満のものは、FIP制度とFIT制度のいずれかを選択できることとされ、FIT制度を選択すると入札対象容量(現在250kW)以上であれば入札対象となる一方、FIP制度を選択した場合には入札制の対象とはしないこととされました。

また、2022年度に認定を受ける風力案件については、50kW以上のものは、FIP制度とFIT制度のいずれかを選択できることとの方針が示されました。また、2022年度は、FIP認定を申請する風力は、入札制の対象としないこととされました。なお、FIT制度に関しては、既に入札制の対象とされている着床式洋上風力に加え、250kW以上の陸上風力も2021年度以降は入札制の対象とする方針が示されました。

さらに、太陽光・風力の既認定FIT案件についても、一定規模以上のものについては、事業者が希望すれば、FITからFIPに移行することを可能とする方針が示されました。

3.   新年にあたって

昨年は、再エネに関連する多くの改正・運用改定がありました。Japan Renewable Alertで取り上げたものだけでも、以下のようなものがあります。

  1. 2020年2月の改正法案の国会提出・同年6月の改正法公布再エネ関連法制に関して、Japan Renewable Alert 4447
  2. a.のうち、特に認定失効制度に関して、Japan Renewable Alert 484950、本号
  3. a.のうち、特にFIP制度に関して、本号
  4. 洋上風力第1号案件の公募に関して、Japan Renewable Alert 46
  5. その効果において実質的には法令変更にも匹敵するにもかかわらず、事前告知なくされる運用変更に関し、Japan Renewable Alert 45(事業譲渡・飛び地に関する規律の厳格化)、Japan Renewable Alert 48(飛び地に関する規律の再度の厳格化)

このほかにも、電力ネットワークの在り方、将来的な脱炭素社会の実現、電力市場の在り方などに関し議論がされています。再エネに対する需要が世界的に高まり、日本政府も再エネの導入拡大を重要な政策目標に掲げる中、今後も重要な法令改正・運用改定が予想されます。弊所では、本年も、最新の動向を踏まえて事業者の皆様のサポートをさせていただきつつ、我が国において再エネが適切な形で一層拡充し、根付いていくよう、活動を続けていきたいと考えております。