14 minute read | July.03.2024
English: Japan Renewables Alert 68
Today's Topic
海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下「再エネ海域利用法」)に基づく第3ラウンド洋上風力公募の受付締切が2024年7月19日に迫る中、公募におけるPPAの評価基準が公表されました。本稿では、その速報を始めとして、最近の再エネ関連業界における多くの動きのうち、主要なものをお届けします。
再エネ海域利用法に基づく一般海域における洋上風力発電の第3ラウンド公募の受付締切が、2024年7月19日に迫っています(第3ラウンド公募占用指針はこちら)。こうした中、2024年6月21日に開催された経済産業省及び国土交通省の審議会(洋上風力促進ワーキンググループ及び洋上風力促進小委員会の合同会議。以下「洋上風力合同会議」)の会合(こちら)では、2023年12月及び2024年3月に結果が公表された第2ラウンド公募における事業者選定についての評価等について、事務局から説明がされました。第2ラウンド公募における評価に当たり、電気ないし環境価値についての相対契約(本稿において「PPA」ということがあります。なお、PPAは、Power Purchase Agreementの略です。)に関するオフテイカーとの合意書をどのように評価したのかについても説明がされるなど、受付締切を目前に控えた第3ラウンド公募の申請に当たっても参考となる有用な内容であり、申請締切前に確認しておくことが望まれます。
一般海域における着床式洋上風力に関しては、FIT制度を前提とする第1ラウンド公募とは異なり、第2ラウンド以降は、FIP制度を前提とする公募が実施されています。FIP制度では、認定事業者は、卸電力市場又は相対取引を通じて売却した電力量に対応して、電力広域的運営推進機関(OCCTO)から供給促進交付金(FIP交付金)の交付を受けることができます。公募では自身の事業についての計画を提出して様々な観点から第三者委員会による評価を受けますが、自ら電気や環境価値の換価の方法を計画する必要があるFIP制度を前提とする第2ラウンド以降の公募においては、こうした計画の実現性・確実性は「資金・収支計画」の項目(配点10点)において評価される重要な事項です。
もっとも、公募参加者は、小売電気事業者や需要家をオフテイカーとする電気ないし環境価値の相対取引(いわゆるコーポレートPPAのスキームによるものを含みます。)を行うことを見込んでいたとしても、実際の発電開始より遥か前の公募参加時点では、こうした相対契約(PPA)を締結することはできません。そこで、公募においては、オフテイカーとの合意書(覚書やオフテイカーからの関心表明書等を含みます。)を取り交わし、これを提出することで自身の計画の実現性・確実性についての評価を受けることができるものとされています(第2ラウンド公募占用指針に係るパブコメ回答(こちら)No. 91)。
この点に関し、第3ラウンドの公募占用指針について2024年1月に公表されたパブコメ回答(こちら。No. 626)では、「コーポレートPPAに基づく収支計画の実現性については、事業期間にわたって必要な収入を確実に確保することができるかの観点で評価します。」とされ、評価に当たっては、(1)「オフテイカーから入手した合意書等に記載されている価格・取引量・契約期間と収入計画の数値の整合性とともに、オフテイカーの信用力・実績・コミットメント、契約内容等からそれらの商務条件の履行が確からしいかを確認することになります。」とされているほか、(2)オフテイカーの契約不履行・倒産リスクへの対応策(未然防止策及びリスク発現時対策)の内容についても評価を行うとされています。さらに、このパブコメ回答に関連して、2024年4月に公表されたQ&A(こちら。No. 224)では、(1)合意書の内容に関し、同じ商務条件であれば法的拘束力のあるものを高く評価するが、オフテイカーの信用力を踏まえ、法的拘束力のないものも評価され得るという趣旨の回答がされているほか、(2)リスクへの対応策に関し、合意書記載の取引量が売電量をカバーできているかどうかという点が最も重要であるものの、こうした合意書の数もリスク分散の観点から評価対象となり得る旨の回答がされています。
2024年6月21日の洋上風力合同会議では、第2ラウンド公募においてゼロプレミアム水準で入札した事業者(全4海域全12事業者中9事業者)は、基本的には相対取引によって売電して収入を確保する計画であったことが明らかにされた上で、第三者委員会がこれらの事業者の各計画をどのように評価したのかが説明されました(洋上風力合同会議上記会合の資料1(こちら)の7頁以下)。
これによると、まず、各オフテイカーとの合意書は、3つの評価軸をもってA、B、Cの3つのランクに分類したと説明されています。具体的には、(i)オフテイカーの長期信用格付けが「BBB」格以上か否かを確認し、これが満たされていないものはCランクに分類する一方、満たされているものについては、商務条件の確実性を見るべく、(ii)合意履行に対するオフテイカーの明確な意思表明及びオフテイカーが調達する電力の用途の具体性の有無が確認されました。そして、これが満たされていないものはやはりCランクに分類する一方、満たされているものについては、更に商務条件の確実性を見るべく、(iii)当該合意書の拘束力の有無を確認し、法的拘束力のないものをBランクに、あるものをAランクに分類したとされています。
その上で、これらAランクとBランクの合意書については、履行される確実性の高いものとして捉え、(a)買取量が総発電量を超えるかについて確認するとともに、(b)信用格付けが下がった際の銀行保証状の差入れ要求、中途解約金の設定等の契約上の工夫等により合意履行の確実性が確保されているか、(c)オフテイカーの契約不履行ないし倒産の際に替わってオフテイクを行う者の確保等の具体的なバックアッププランがあるか等の観点から、各公募参加者の計画の実現可能性について評価をしたとされています。その結果、上記(c)の観点から、「資金・収支計画」の項目において「優れている」との水準に達しているか否かの評価に差が生じたと説明されています。
第3ラウンド公募への応募においても、事務局から第2ラウンドにおける評価方法として説明された上記事項を踏まえ、改めて提出予定の合意書、資金計画及び収支計画を確認することが望まれます。
2024年4月、宮城県で、再エネ発電事業に特化した課税を行う条例が全国で初めて施行されました。Japan Renewables Alert 66においてお伝えしたとおり、0.5haを超える森林区域の開発を経て新規に設置される再エネ発電設備(太陽光、風力又はバイオマス)の所有者に対し、その発電出力に応じて課税をするものです。課税による立地誘導を試みる新たな手法として注目を集めており、全国の都道府県の約6割が「関心がある」と回答したとの報道もされています。東北地方では、宮城県に続き、青森県も主として陸上風力を念頭に再エネ発電事業を対象とする新税の導入を検討する方針を2023年9月に明らかにしているほか(こちら。なお、青森県知事は2024年4月の記者会見では太陽光も新税の対象とする意向を示しています。)、山形県でも知事が2024年4月の記者会見で「税導入の可能性について、前向きに検討してまいりたい」との意向を示しています(こちら)。
さらに、青森県では、上記新税の創設の可否についての検討に加え、再エネ立地のゾーニング及び地域との合意形成手続を定める「地域共生条例」の制定に向けた検討を行っており、2024年5月以降、有識者会議(青森県自然・地域と再生可能エネルギーとの共生制度検討有識者会議。以下「青森県有識者会議」)での議論がされています(こちら)。
青森県有識者会議において青森県が叩き台として青森県有識者会議に提示した案(以下「制度案」)では、(1)「共生区域」、(2)「調整区域」、(3)「保全区域」、(4)「保護区域」の4つの区域を設定することとされています。このうち、(1)「共生区域」は、温対法等に基づいて市町村、住民、事業者で構成される協議会等を経て、再エネ事業に対する地域合意が得られた区域とされています。制度案では、こうした共生区域であっても、事業者は、事業実施に先立って事業計画を作成して行政から認定を受けなければ事業を実施し得ないものとすることが構想されています。さらに、(4)「保護区域」及び(3)「保全区域」は、は再エネ発電事業が原則として実施不可の区域であるものの、(3)「保全区域」では協議会等により地域合意を得ることで「共生区域」への移行が可能と整理されています。(2)「調整区域」は、これらのいずれにも該当しない区域であり、事業者には、協議会等を通じた地域との合意形成を経て、事業対象区域を「共生区域」の対象とするよう努めることが求められています。仮に「共生区域」としない場合、計画中の条例に基づく住民説明会(意見交換会)等を通じて事業計画を調整した上、その事業計画及び合意形成について県から適切である旨の確認を受けることが構想されています。
こうした地域共生を目的として掲げる制度は、他の地域にも波及していく可能性があり、青森県有識者会議での議論を注視する必要があります。
2024年4月に、FIT/FIP制度に関する再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(平成23年法律第108号。以下「再エネ特措法」)の改正が施行されました。今回の再エネ特措法の主要な改正事項としては、(1)FIT/FIP認定又は一定の事項についての変更認定の申請に先立つ地域住民に対する説明会又は周知手続(50kW以上の場合は説明会)の要件化、(2)委託先に対する監督義務の明文化、(3)事業計画違反時の積立命令及び返還命令の制度の創設等が挙げられます。上記(1)及び(3)についてはJapan Renewables Alert 67等でお届けしたとおりですが、上記(2)についても、既存契約の見直しなどが必要なるため留意が必要です。
再エネ特措法の改正により、FIT/FIP認定事業者には、認定事業計画に沿って事業を実施する義務(再エネ特措法10条の3第1項)に加え、第三者にその事業の全部又は一部を委託する場合は、認定事業計画に沿った事業運営がされるよう委託先に対して必要かつ適切な監督を行う義務(同条2項)があることが明文で規定されました。これを受けて、資源エネルギー庁では、改正施行日の2024年4月1日、「再生可能エネルギー発電事業に係る業務の委託について(運用指針)」(こちら。以下「運用指針」)を公表し、FIT/FIP認定事業者の負う監督義務の内容を示しています。
運用指針では、想定される委託業務の範囲について、「手続代行・プロジェクトマネジメント、設計、土地開発、建設・設置工事、保守点検(柵塀の設置及び維持管理、雑草の除去等を含む。)、設備解体、廃棄・リサイクルに係る業務の委託」が例示されており(運用指針1頁、脚注1)、幅広く業務委託全般が対象として想定されています。そして、認定事業者は、委託先と委託契約書を締結し、当該契約書において、(a)委託先が認定計画や認定基準(関係法令の遵守を含む。)に従うべき旨、(b)委託先に対する監督及び認定事業者に対する報告に関する事項、(c)委託契約のうち主要な部分を再委託する場合には、認定事業者の事前同意などが必要である旨を明確化する必要があるとされています(運用指針第1(2))。
このうち、上記(b)に関しては、委託先に対する監督の内容として、(i)委託先との間で定期的な打合せを設け、委託先が認定計画や認定基準に従うための具体的な方法について認識の一致を図ること、(ii)委託内容が土地開発、建設・設置工事などの施工を伴う場合には、認定事業者が施工現場に常駐し、又は定期的に立ち入り、実態を把握すること、(iii)委託内容が土地開発、建設・設置工事などの施工を伴う場合には、委託先においても地域住民と適切なコミュニケーションを図るとともに、地域住民に十分配慮して事業が実施されるよう監督を行うこととされています(運用指針3頁、第2(1))。さらに、認定事業者は、委託先から定期的な報告及び異常時の速やかな報告を求めることとされており、特に土地開発、建設・設置工事などの施工を伴う委託契約の場合は、工事前・工事中・工事後の各施工状況を把握することのできる写真を報告書に添付することとされています(運用指針3頁、第2(2))。
今後、資源エネルギー庁に対する設置費用報告及び運転費用報告の定期報告において、委託契約書の有無、委託契約書の相手方、委託契約の概要、委託先からの報告書の写しといった委託の状況の報告が必要となり、準備期間を経て、2025年4月1日以降に報告期限を迎える報告からは、上記内容の報告が必須となるとされています(運用指針5、6頁、参考3)。なお、事業譲渡等に伴って承継した委託契約についても報告徴収等の対象となり得るため、当該委託契約について、報告徴収等の際には譲渡人から譲受人に必要な情報提供を行うことに対する承諾を予め得ておくことを含めて、譲渡人から適切に引継ぎを受けるよう注意喚起がされています(運用指針6頁、参考4)。
上記改正については特段の経過措置は設けられていないため、施行日前にFIT/FIP認定を取得した事業者も、今後業務を委託する場合には上記の内容の委託契約書を締結する必要があることはもちろん、既に締結している契約書に上記の内容が定められていない場合には運用指針に沿った内容に変更する必要があります。弊所では、この改正を踏まえて既存契約のレヴューやこれを変更する覚書の作成を進めておりますので、ご懸念・ご関心があればお知らせください。