Japan Renewables Alert 64


10 minute read | October.04.2023

English: Japan Renewables Alert 64

Today's Topic

  1. 非FIT/FIP再エネ・蓄電池・水素発電の後押しに:長期脱炭素電源オークション始動 ---初回事業者登録開始へ
  2. Orrick、GPI売却に関しPattern Energyに助言を提供
  3. Orrickの隔週Regulatory Update Reportのご案内

I. 非FIT/FIP再エネ・蓄電池・水素発電の後押しに:長期脱炭素電源オークション始動 ---初回事業者登録開始へ

2023年度から、「長期脱炭素電源オークション」が開始されます。長期脱炭素電源オークションは、容量市場の仕組みの下で電力広域的運営推進機関(OCCTO)が行うオークションの制度であり、太陽光や風力といった自然変動再エネの大量導入が進む中、蓄電池や水素発電などの調整力を有しつつ、エネルギー部門CO2排出量の削減に貢献する電源に対する投資を促進することが期待されています。落札電源は、OCCTOと「容量確保契約」を締結し、一定の長期間(原則として20年間)にわたって一定の要件を充足しつつ供給力を提供し、その対価として、固定費相当部分をカバーするための容量確保契約金の支払を受けます。初回の長期脱炭素電源オークションに関し、OCCTOは、2023年9月13日、募集要綱及び容量確保契約約款を公表しています(こちら及びこちら)。2023年10月16日からは事業者登録の受付が開始される予定であり、2024年1月の初回オークションに向けて準備が進められています。

本Alertでは、長期脱炭素電源オークションを概観するとともに、日本における再エネや蓄電池の将来を展望します。

  1. 容量市場の概要及び長期脱炭素電源オークション導入の背景

    長期脱炭素電源オークションは、容量市場の1つとして創設された制度です。

    2020年度に初回オークションが行われた容量市場は、将来必要な電気の供給力を確保するため電源投資を促進するという目的で創設されました。電力自由化後の市場において、限界費用がゼロ円となる再エネ導入が進むことで電力量価格(kWh価値)が低下すれば、相対的に限界費用が高いものの電力の安定供給のために必要な電源が市場から退出し、中長期的に供給力が不足しかねないとの懸念が指摘されてきました。容量市場は、こうした懸念を踏まえ、一定の基準を満たす供給力を将来において提供することに対して対価を支払う仕組みとして作られたものです。

    これまで実施されてきた容量市場のオークション(「メインオークション」として今後も存続)では、OCCTOが供給力(kW価値)の買主として実需給年度の4年前に電源を募集し、参加希望電源は事前の登録を行った上で自身の単価(円/kW/年)を入札します。落札電源は、OCCTOと「容量確保契約」を締結し、定められた実需給年度に提供する供給力(kW価値)の対価として、容量確保契約金(容量確保契約金単価(kW/円)に電源の性質を考慮して一定の調整を加えた容量(kW)を乗じた金額)を受け取ることとなり、このように、卸供給契約を締結している小売電気事業者や卸電力市場から得る電力量(kWh価値)に対する対価に加えてOCCTOから供給力(kW価値)に対する対価を受け取ることで、将来の予見性を向上させることができます。容量確保契約金は、小売電気事業者等から集められる容量拠出金を原資とします。

    容量確保契約上、落札電源は、供給力を提供しているといえるための一定の要件(リクワイアメント)を充足する必要があり、これを充足できないと経済的負担(ペナルティ)を支払うこととなります。なお、OCCTOは、メインオークションから実需給までの4年間のうちに生じた事情変更を考慮して必要があると判断すれば、追加的に容量提供事業者を募集し、又はメインオークションで確保した容量を開放する者を募集する「追加オークション」を実需給の前年に実施することがあります。

    さらに、国は、2050年カーボンニュートラルを目標とし、2030年には温室効果ガスの排出を2013年比で46%削減することを掲げているところ、募集対象の電源によるCO2排出の観点に対する考慮の必要性や一層の投資活性化の必要性から、脱炭素効果の高い電源に対して複数年にわたって容量確保契約金を支払う「長期脱炭素電源オークション」が創設されることとなりました。

  2. 長期脱炭素電源オークションの概要

    長期脱炭素電源オークションに参加可能な電源は、「安定電源」と「変動電源」の2種類に大別されます(募集要綱11頁以下)。「安定電源」として参加可能な電源としては、送電端設備容量が10万kW(100MW)以上である一定の水力電源、一定の火力電源(LNGに熱量ベースで水素10%以上混焼させる火力電源又は水素専焼のもの)、原子力電源、地熱電源、一定のバイオマス電源のほか、送電端設備容量が1万kW(10MW)以上の揚水式水力又は蓄電池(スタンドアロン型)が該当し得ます。また、「変動電源」として参加可能な電源としては、送電端容量が10万kW(100MW)以上の一定の水力電源、太陽光電源、陸上風力電源、洋上風力電源が該当します。なお、FIT/FIP認定の対象となっているものは参加できません。

    募集容量は、400万kW(4GW)です。もっとも、揚水式水力及び蓄電池に関しては合計で100万kW(1GW)を上限とするなど、募集容量の上限が定められている電源もあります(募集要綱10頁)。

    長期脱炭素電源オークションにおいても、メインオークションと同様、落札電源は、OCCTOと容量確保契約を締結し、OCCTOからその供給力価値(kW価値)対する対価の支払を受けることとなります。また、一定のリクワイアメントの充足が求められ、これが達成できなければペナルティが課される点においてもメインオークションと同様ですが、以下のような違いがあります。

    第1に、メインオークションの落札電源は単年度において支払を受けることができるにとどまるのに対し、長期脱炭素電源オークションの落札電源は複数年度(原則として20年間)にわたり容量確保契約金の支払を受けることとなります(この容量提供及び容量確保契約金支払の対象となる期間は「制度適用期間」と称されます。)。なお、落札電源に支払われる容量確保契約金は、CPI(消費者物価指数)による補正が行われます(約款6条)。

    第2に、約定価格の決定方法が異なります。メインオークションでは、OCCTOが決めた需要曲線を基礎として定まる約定価格が落札者全員に一律に適用されるシングルプライス方式が原則とされているのに対し、長期脱炭素電源オークションでは落札者の応札価格が約定価格となるマルチプライス方式が取られています。容量確保契約金額(年額)は、一定の補正があるものの、基本的に約定単価(円/kW)に契約容量(kW)を乗じて定まります(約款6条参照)。なお、容量に関しては、電源種による差異を踏まえ、一定の調整係数を乗じて算定されます(たとえば、太陽光や風力などの自然変動電源では低い値となります。)。

    第3に、長期脱炭素電源オークション落札電源は、他市場収益を還付する必要があります。すなわち、長期脱炭素電源オークションは、あくまで固定費相当部分に対する投資回収予見性を確保することによって投資を促進することが意図されており、長期脱炭素電源オークションの制度によって賄われるのはこの固定費相当部分に限られます。このため、応札価格は見込まれる固定費を元に算出することとされており、応札価格に織り込むことが認められるコストは、資源エネルギー庁策定の「長期脱炭素電源オークションガイドライン 」(2023年7月11日策定。こちら)に従って計上することとされており(募集要綱26、27頁)、その適切性は電力・ガス取引監視等委員会による監視の対象とされています(なお、応札価格については、上記規律に加え、電源種ごとの上限が設定されています。)。そして、制度適用期間において実際に得た「他市場収益」(長期脱炭素電源オークション外で、卸電力市場や相対卸供給契約を通じて得た収益)の一定部分については、OCCTOに「還付」することとされています。具体的には、(i)収入(容量確保契約金及び他市場収益)が(ii)費用(固定費及び変動費)を超えた場合、その超えた部分の約9割相当が還付対象となります。

    第4に、落札電源には、基本的にはメインオークションと同様、一定のリクワイアメントの達成が求められるところ、長期脱炭素電源オークション特有のリクワイアメントも設定されています。たとえば、「供給力提供開始期限」を超過して供給力開始にいたらなければ、当該期間分、容量確保契約金を得られる期間が短縮されることとされており、太陽光については容量確保契約締結の日から5年後の日が属する年度の末日(法・条例アセス済みの場合は3年)、風力については8年後の日が属する年度の末日(法・条例アセス済みの場合は4年)、蓄電池については4年後の日が属する年度の末日が、それぞれ供給力提供開始期限とされています(約款13条、15条)。また、年間設備利用率について、太陽光18.3%、陸上風力28.0%といった値が設定されており(約款19条)、これを下回れば一定の算式に従って経済的ペナルティが科されることとされています(同21条)。

    長期脱炭素電源オークションに参加するかどうかを決めるに当たっては、上記のペナルティ等の制度設計を踏まえて十分に検討する必要がありますが、今後、急速に拡大が見込まれる系統用蓄電池などのプロジェクトへの活用の可能性などに大きな関心が寄せられています。

  3. Outlook

    日本では、電力自由化及び再エネ導入の10年間を経て、様々な新制度が動き始める節目にあります。2023年度は初回の長期脱炭素電源オークションが実施され、2024年度は需給調整市場(一般送配電事業者が調整力を調達する制度)での取引が全面的に開始されます。再エネの大量導入が進む中で、系統用蓄電池や水素製造装置の導入を支援するための補助金が設けられたり、FIP再エネ電源に併設される蓄電池への系統からの充電を認めるための制度改正(現行法下では不可)が議論されたりするなど、再エネの大量導入を推進しつつ、電力の安定供給を維持しながらこれを支える方策が様々に試みられています。透明性の高い仕組みの下で適切な事業及び投資の環境が整えられるよう、こうした様々な制度改正の動向を注視する必要があります。

II. Orrick、GPI売却に関しPattern Energyに助言を提供

弊所は、2023年8月に完了した米国Pattern Energy Group LPによるNTTアノードエナジー株式会社及び株式会社JERAへの株式会社グリーンパワーインベストメント(以下「GPI」)の売却に関し、助言を提供いたしました(こちらを参照)。弊所は、GPIに対し、その設立時から継続的に助言を提供し、その開発案件のほぼ全てに関与してまいりました。

III. 隔週Regulatory Update Reportのご案内

再エネ関連事業の幅が広がる中、弊所では、再エネ分野での経験が豊富なチームが、海外での知見も踏まえつつ、あらゆる場面で事業者様をサポートさせていただいております。具体的な案件についてはもちろんのこと、数多くの制度改正の議論がされる中、新たな挑戦を続ける事業者様からのご要望を受け、太陽光、風力(陸上・洋上)、蓄電池などそれぞれご関心をお持ちの分野について、隔週でのRegulatory Update Report(有料)配信なども続けております。ご興味がございましたら無料サンプルをお送りしますので、下記連絡先までお気軽にお問い合わせくださいませ。