Japan Renewables Alert 58


March.30.2022

English: Corporate PPAs (No.2) – Feed-in Premium to Start in April 2022

Today’s Topic

コーポレートPPA(第2弾):FIP制度本年4月に開始

電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号)の改正により、同法に基づく再エネ発電支援制度として、同法によって創設されて運営されてきたFeed-in Tariff(FIT)制度に加え、2022年4月から、Feed-in Premium(FIP)制度が開始されます(法律名も「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」に改称されます。以下、改正の前後を通じて「再エネ特措法」といいます。)。FIP制度は、FIP認定を受けた発電事業者が通常の市場取引を行って収入を得ることを前提に、更に一定のプレミアムを交付する制度です。どのカテゴリ(電源種、規模、設置方法)の電源がFIT制度やFIP制度を利用できるのか、FIT/FIP価格をいくらとするのか(あるいは入札制によるのか否か)については、調達価格等算定委員会(以下「算定委」)の意見を尊重して経済産業大臣が定めますが、既に2022年2月4日付けで算定委の意見(こちらを参照。以下「算定委意見」)は公表されています。算定委意見を反映した経済産業大臣による指定(告示)の案(こちらを参照)やプレミアムの算定方法の詳細を定める経済産業省令の案(こちらを参照)は既にパブリックコメント手続を完了しており、2022年3月25日には2022年度以降のFIT価格・FIP価格が正式に公表されました(こちらを参照)。

Japan Renewables Alert 56(こちらを参照)において述べたとおり、業種を問わず、企業はコーポレートPPAを含む再エネ調達にますます関心を示しているところ、通常の市場における取引を前提とするFIP制度は、コーポレートPPAのスキームと組み合わせて活用するという可能性も考えられます。今回は、コーポレートPPAシリーズの第2弾として、日本の再エネ市場の新たな扉を開くFIP制度の概要をお伝えします。

1. FIP制度の概要

2012年7月施行の再エネ特措法によって導入されたFIT制度では、一般送配電事業者に買取義務が課され、再エネ発電事業者は、系統容量を確保して経済産業大臣の認定を受ければ、一定期間(調達期間。いわゆるFIT期間)にわたり、発電する電気の全量を固定価格(調達価格。いわゆるFIT価格)で一般送配電事業者に買い取ってもらうことができました(なお、2017年4月1日より前は小売電気事業者に買取義務が課されていたことから、小売電気事業者が引続き買取りを行っているFIT案件もあります。)。また、通常の発電事業者は、計画値同時同量制度(インバランス制度)の下、各コマの発電量を予測して事前に計画値を提出し、計画値からのずれについてはインバランス料金(市場価格等により変動)により精算することとされていますが、FIT発電事業者はこうした計画提出及びインバランス精算の義務の免除を受けることができます(FITインバランス特例)。

FIT発電事業者を市場価格変動リスク及びインバランスリスクから解放することで再エネ発電事業への投資は促進され、欧米諸国に比べて遅れていた日本の再エネ導入は加速しましたが、再エネ電源も十分な競争性を備えて市場に統合されていくことが期待される段階に至っています。FIP制度は、FIT制度とは異なり、再エネ発電事業者が小売電気事業者との通常の市場取引(卸電力取引市場における取引又は相対取引)により売電収入を得ることを前提とした制度であり、FIT制度から完全な市場統合への移行期の橋渡し的な制度と位置づけられます。経済産業大臣からFIP認定を受けた再エネ発電プロジェクトは、こうした市場取引から得られる収入に加えて、電力広域的運営推進機関(OCCTO)を通じ、一定の方法によって算定されるプレミアム(再エネ特措法上「供給促進交付金」と呼ばれ、その原資は広く需要家全体で負担する賦課金で賄われます。)の交付を受けることができます(下図参照)。プレミアムは、月ごとにその額が算定されて交付されることとされており、プレミアム単価(供給促進交付金単価。円/kWh)にFIP発電事業者の当該月の供給電力量(kWh)を乗じた値を基礎として、これに一定の補正(再エネ出力抑制が生じ得るスポット市場最低価格(0.01円/kWh)時間帯における発電量についての補正)をして算定されます(プレミアム(円)=プレミアム単価(円/kWh)×供給電力量(kWh)×補正)。プレミアム単価は、経済産業大臣が算定委の意見を尊重して定める基準価格(FIP価格)から参照価格(市場価格等に基づいて算出される価格)を差し引いた値であり、月ごとに定まります(プレミアム単価(円/kWh)=FIP価格(円/kWh)-参照価格(円/kWh))。

graphic comparing FIT Scheme and FIP Scheme

図については資源エネルギー庁ウェブサイトから(こちらを参照)

FIT制度とFIP制度では、上述のとおり、後者では再エネ発電事業者が市場取引で売電することを前提とする点で大きな違いがあります。非FIT再エネ発電事業者(FIP認定を受けた場合も含む。)は、市場価格や発電量を予測して行動することが求められ、自ら市場価格変動リスクやインバランスリスクを負うことを避けるには、アグリゲーターとの契約や小売電気事業者との相対契約を通じてそのリスクを転嫁することとなります。一方、再エネ発電に伴う環境価値を表章する非化石証書に関しては、FIT非化石証書の売手が第三者機関(2022年4月以降はOCCTO)とされるのに対し、非FIT非化石証書(再エネ指定あり)(FIP案件由来のものも含みます。)は再エネ発電事業者自らが売手となります。FIP発電事業者は、以下の図のとおり、小売電気事業者(系統を通じて供給される電気については、需要家は、登録を受けた小売電気事業者から購入することとされています。)に対して相対取引により電気と非FIT非化石証書(再エネ指定あり)を供給した上、更にOCCTOを通じてプレミアムの交付を受けるということが考えられます(需要家主導型のいわゆるコーポレートPPAであれば、フィジカルPPAの一種である「スリーヴドPPA」にFIP制度上のプレミアムを組み合わせた形態です。詳細は、Japan Renewables Alert 56をご参照ください。)。

OCCTO graphic

2. FIP制度の対象電源

前述のとおり、どのカテゴリ(電源種、規模、設置方法)の電源をFIT制度やFIP制度の対象とするかは、経済産業大臣が、算定委の意見を尊重して定めて告示することとされています。また、FIT価格又はFIP価格についての入札制の対象とするカテゴリも、同様に定めて告示されます。

算定委意見では、これらカテゴリに関する2022年度以降の一定の方針が示されており、50kWの再エネ電源(太陽光、風力、中小水力、地熱、バイオマス)ではFIP制度を利用することができるようになります。より具体的には、1,000kW以上の太陽光では、2022年度以降FIP制度(入札制)のみが利用可能とされ、50kW以上の陸上風力では、2022年度はFIT制度(入札制)又はFIP制度(非入札)を選択可能であるものの、2023年度以降はFIP制度(入札制)のみが利用可能とされています(下図参照)。洋上風力においては、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号。以下「再エネ海域利用法」)に基づいて公募が行われるもの(一般海域で行われるもの)と、同法適用対象外のもの(港湾区域のものなど)とがありますが、このうち、後者について、着床式は2024年度以降FIP制度(入札)のみ利用可能とする方針が示される一方(下図参照)、浮体式では2024年度までFIT制度とFIP制度を選択的に利用できることとするとの方針が示されています。再エネ海域利用法適用対象の案件がFIT制度とFIP制度のいずれを利用することができるのかについては、最終的には海域ごとに定められる公募占用指針において明らかにされますが、算定委意見では、再エネ海域利用法適用対象の洋上風力案件においても同法適用対象外のものと基本的には同様に考えるべきとした上で、2024年度以降の着床式については同法に基づく公募においてFIP制度のみとするとの方針が示されています。

FIT / FIP options by category

(図は算定委意見から。注記は省略)

また、算定委意見では、FIT価格やFIP価格も示され、前述のとおり、2022年3月25日にはこれを踏まえて正式に指定がされています。大規模太陽光及び風力(陸上及び再エネ海域利用法適用外の洋上)のFIT価格・FIP価格(入札であれば入札上限価格)は以下のとおりです。

 

2022年度

2023年度

2024年度

太陽光(1,000 kW 以上)

FIP入札(年4回。上限価格は、それぞれ10.00円、9.88円、 9.75円、9.63円)

FIP入札

FIP入札

陸上風力(新設50kW以上)

FIT入札(上限価格16円)

FIP(FIP価格16円)

FIP入札(上限価格15円)

FIP入札(上限価格14円)

洋上風力(着床式)

再エネ海域利用法外

FIT(FIT価格29円)

FIP(FIP価格29円)

FIT入札

FIP入札

FIP入札

洋上風力(浮体式)

再エネ海域利用法外

FIT(FIT価格36円)

FIP(FIP価格36円)

既存FIT電源も、FIT発電事業者が希望するのであれば、FIP制度への移行をすることができます。移行後のFIP価格は従前のFIT価格の水準とされ、FIP期間は従前のFIT期間の残存期間とする方針が示されています。なお、FIP制度では再エネ発電事業者がインバランスリスクを負担することを踏まえ、FIP制度のプレミアムの額の算定に当たっては「バランシングコスト相当額」が加算されますが、この「バランシングコスト相当額」は、2022年度中は1.0円/kWh、2023年度中は0.95円/kWhとされており、早期の移行認定に対してインセンティブを付与する制度となっています。

3. まとめ

グラスゴー気候合意ではパリ協定における1.5℃目標の重要性が改めて確認され、脱炭素に向けた企業の関心もこれまでになく高まっています。日本政府も2030年度までに温室効果ガスを2013年度比46%削減するとの目標を表明しており、第6次エネルギー基本計画において、現在20%程度の再エネ比率を2030年までに36~38%とすることを想定しています。コーポレートPPAへの関心の高まりやFIP制度の開始は、再エネ市場が大きな転換点にあることを示すものといえます。

こうした転換点における事業機会獲得のために、再エネ案件の開発・投資その他の参画等に当たっては、法令・制度、そしてマーケットを適切に理解して対応することが一層重要となっています。例えば、最近のコーポレートPPA案件においては、FIP制度を組み込んだ検討が当然の前提として行われている案件がある一方、FIP制度の利用を望まないコーポレートPPAの需要家もおり、関係当事者の各ニーズに対応しながら、慎重に開発・投資を進めていく必要性が高まっております。また、FIP制度の開始を見込んだ再エネ発電事業者向けサービスを提供する小売電気事業者・アグリゲーターも登場しており、スキームのいかなる段階で、どのような当事者を組み入れるかについても留意が必要です。

弊所は米国や日本で再エネ関連法務において業界有数の経験を有し、東京オフィスでは太陽光・風力を中心に数多くの事業者様の再エネ案件の開発をサポートさせていただいております。FIP制度の詳細についてのお問い合わせや同制度を活用した案件におけるサポートはもちろん、再エネ案件の開発・購入・ファイナンスのあらゆるステージに対応しておりますので、お気軽にご連絡ください。