13 minute read | September.28.2026
English: Japan Employment Law Alert: Mandatory Measures Against Harassment by Customers and Against Sexual Harassment towards Jobseekers etc. — Companies Must Now Address Harassment Arising Outside of the Company
これまで、企業は、「社内での」ハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ、及び育児・介護ハラスメント。以下、併せて「社内型ハラスメント」といいます。)について、相談体制の整備等の対策を講じる必要がありました。しかし、2026年10月1日からは、法1改正(以下「本法改正」といいます。)により、企業は、「対社外で」起こる、顧客等によるハラスメント(通称「カスタマーハラスメント(カスハラ)」)及び求職者等へのセクハラ(以下、併せて「社外型ハラスメント」といいます。)についても、対策を講じる必要があります。
本法改正の背景として、2023年の厚労省による調査2によって、次のことが明らかになったことが挙げられます。
このような背景を受けて、本法改正は、その企業の規模にかかわらず、企業に対して、社外型ハラスメントについて、①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談体制の整備、③事後の迅速かつ適切な対応、④その他の措置を義務付けることになりました。これらの内容は、社内型ハラスメントにおいて既に義務付けられている対策の内容と概ね同じですが、社内型ハラスメントへの対策は、自社従業員を加害者又は被害者にさせないことに主眼を置いたものであるところ
いたものであるところ、カスハラ対策については、自社従業員を被害者にさせないこと、求職者等へのセクハラについては、自社従業員を加害者にさせないことに主眼を置いている点で、社内型ハラスメントの対策と違いがあると言えます。なお、各ハラスメントの定義及び対策内容の詳細については、厚労省による「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」(日本語のみ)をご参照ください。
本稿では、本法改正の対象となっているカスハラ及び求職者等へのセクハラの定義を確認した上で(下記2)、これらのハラスメントについて求められる対策の概略を確認し、その中でも特に注意を要する対策について紹介をします(下記3)。最後に、これらの対策が不十分であった場合における法的リスクに触れます(下記4)。
カスハラとは、①顧客等の言動であって、②その雇用する従業員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上の許容範囲を超えたものにより、③従業員の就業環境が害されるものをいいます。
上記①の「顧客等」とは、取引の相手方を含むので、いわゆるB2Bの事業しか行っていない企業にとっても、カスハラ対策は無縁ではありません。
上記②については、顧客等からの要求について、「言動の内容」及び「手段や態様」から、総合的に社会通念上の許容範囲を超えるかを判断することになります。この点、判断が容易なケースもありますが、正当な要求との違いの判断の際に困難を伴うケースが多くなることが想定されます。厚労省は、カスハラに該当する行為の例として、次を挙げます。
| 「言動の内容」が社会通念上の許容範囲を超えるもの |
「手段や態様」が社会通念上の許容範囲を超えるもの |
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求職者等へのセクハラとは、事業主が雇用する従業員による性的な言動により、求職者等による求職活動等が阻害されるものをいいます。この点、「セクハラ」の定義については、社内型ハラスメントにおけるセクハラのそれと概ね同じです。一方で、対象者たる「求職者等」とは、事業主の従業員ではないが、①求職者(事業主の求人に応募する者)、②事業主の実施する採用活動に参加する者、③事業主の実習(例:インターンシップ)を受ける者を指し、主に、就職面接、OB・OG訪問、会社のリクルーターとのコミュニケーション、インターンシップにおけるセクハラが、対象として想定されています。
本法改正により企業が求められることになる対策事項は、次のとおりです(社内型ハラスメントにない対策事項には下線を引いています。)。
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カスハラ |
求職者等へのセクハラ |
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求職者等へのセクハラ |
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【相談体制の整備】 |
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【事後の迅速かつ適切な対応】 |
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【対応の実効性を確保するために必要な措置】 |
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【その他の措置】 |
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これらの対策事項として、社内型ハラスメントへの対策と比較して、特に注意を要するものは次のとおりです。
カスハラの対策事項で注意を要するものとして、従業員がカスハラ(と疑われる行為)の被害にあった場合の対処の内容を定め、これを従業員に周知することが挙げられます。
この点、社内型ハラスメントでは、従業員がハラスメントをしないことを目的としているので、その対策事項としては、何がハラスメントに該当するのかを明確にし、それを禁止することが求められます。一方で、カスハラの対策事項は、従業員がカスハラの被害にあわないこと、被害にあった場合に適切に対応することを目的としており、その表れとして、本対策事項が定められているということができます。
定めるべき「対処の内容」は、会社の従業員の実態に応じて定める必要がありますが、厚労省が以下の例を挙げています。これらの例は、B2Cのカスハラを主として想定しているので、必ずしもB2Bのカスハラへの対処の内容にあてはまらないものの、少なくとも法律上の対策義務を満たすためにどの程度の粒度の対処内容を定める必要があるのかを知るための参考になります。
また、周知の方法は、特に定められたものはなく、厚労省の例では、マニュアル等の作成・配布、研修・講習等の実施等が挙げられています。
上記⑵にて紹介した対策措置と似ていますが、カスハラ対策措置として、特に悪質と考えられるものへの対処の方針を定め、従業員に周知することも必要になります。
ここにいう「特に悪質と考えられるもの」について、厚労省は、従業員に対し過度な要求を繰り返すことを例に挙げるのみで、何がこれに該当するのかの判断が悩ましいところです。この点、何がカスハラに該当するかは、厚労省によると、上記2⑴のとおり、「言動の内容」及び「手段や態様」から、総合的に社会通念上の許容範囲を超えるかを判断することになる一方で、同じく上記2⑴に列挙した言動については総合的な判断をすることなくカスハラに該当するとしているので、これらの行為が「特に悪質と考えられるもの」に該当するかを判断するのに役立つと考えられます。
定めるべき「対処の方針」の内容について、厚労省は、次の例を挙げます。これらもB2Cのカスハラを主として想定しているので、必ずしもB2Bのカスハラへの対処の内容にあてはまらないものの、少なくとも法律上の対策義務を満たすためにどの程度の粒度の対処内容を定める必要があるのかを知るための参考になります。
「体制の整備」について、厚労省は、その例として、人事部門、カスタマーサービス部門、法務部門等の関係部門が適切かつ迅速に連携できる体制を設け、特に悪質と考えられるカスハラが生じた際には、当該関係部門が連携して、取るべき対処を判断するように定めることを挙げます。
社内型のセクハラの対策措置と異なり、求職者等へのセクハラについては、これを防ぐために、従業員が求職者等に接する際のルールを策定することが求められます。ルールを策定する事項の例としては、厚労省は、①面談時間の指定、②場所の指定、③実施体制、④やりとりに用いるSNSの種類の指定を挙げますが、どこまでの制限が必要であるかについては言及していません。よって、①、②、④については、どこまで業務と離れた時間・場所・通信手段を許容するかについて、各企業にて判断する必要があります。また、③については、面談の際の人数の制限(1対1を避ける。)、面談実施従業員に、場所、時間、方法等の事前又は事後の報告を義務付けることが、例として挙げられます。
社内型ハラスメントは、想定される加害者も被害者も社内の者なので、周知・啓発の対象は社内の者に限られる一方で、社外型ハラスメントである求職者等へのセクハラについては、想定される被害者が会社の外にいますので、これらの内容についても、社外の者への周知・啓発が求められます。
周知・啓発の方法の例として、厚労省は、「パンフレット、ホームページ等」を挙げておりますが、基本的には後者が現実的であるといえます。具体的には、会社ホームページの求職者向けのページに、該当情報を掲載することが挙げられます。
上記対策が不十分である場合、法律上、厚生労働大臣より、その不十分性の程度に従い、助言、指導、又は勧告という行政指導が課され、勧告に従わない場合には、その旨が公表されることになります。なお、社内型ハラスメントについても、法律上、同様の行政指導が課される建付けになっていますが、これまで公表までに至った事案は存在しません。よって、社内型ハラスメントについて助言、指導、又は勧告が課された事業者は、これらに従ってハラスメント対策を改善させたと言え、社外型ハラスメントについても、同傾向が続くものと予想されます。
また、従業員がハラスメント被害にあった場合、上記対策が不十分であったことを理由に、自身の雇用主に対して、損害賠償請求をすることがあります。上記対策が不十分である場合には、このような請求に対して十分な防御ができないというリスクを生じさせます。
なお、カスハラについては、自らの従業員が、その取引先に対してカスハラを実施した場合には、独占禁止法に基づく優越的地位の濫用に該当し4、同法に基づく処分及び公表がなされるリスクがあります。
[1] 労働施策総合推進法及び男女雇用機会均等法
[2] 厚労省『雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 報告書』 2024年8月8日(日本語のみ
[3] 「厚労省令和 5 年度調査によると、就活 等 セクシュアルハラスメント について 過去3年間に 相談があった企業は 0. 7 %に 過ぎないが、 2020 2022 年度卒業で インターンシップ中に セクシュアルハラスメント を経験した者は 30.1 %、 2020 2022 年度卒業で 就職活動中に セクシュアルハラスメント を経験した者は 31.9 %という状況である。勤務先で従業員が セクシュアルハラスメント を受けた経験が 6.3% であるのに対して、就職活動等において セクシュアルハラスメント を受けたとする学生等は多くいる。」(厚労省『雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 報告書』 2024年8月8日)
[4]カスハラ該当行為の対象事業者との関係によっては、優越的地位の濫用の規制内容を具体化した、中小受託取引適正法、及びフリーランス法に基づく処分の対象となるリスクもあります。