Japan Renewables Alert 70


10 minute read | July.01.2025

English: METI’s Implementation of the FIT/FIP Information Session Requirement

Today's Topic

FIT/FIP説明会要件の運用実態

再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(平成23年法律第108号。以下「再エネ特措法」)及び同法施行規則(平成24年経済産業省令第46号。以下「再エネ特措法施行規則」)の2024年4月1日施行の改正により、住民説明会の実施が50kW以上の案件のFIT/FIP認定の要件として導入されてから1年が経過しました。

近時、経済産業省の不合理な運用により、住民と良好な関係を築いてきた多くの事業者が認定を拒否され説明会のやり直しを求められる事態が頻発しています。経済産業省の資料(こちら。8頁)はあたかも不適切な事例について合理的な指導がされたかのような印象を与えかねませんが、実際には、硬直的な運用のために、実質的に十分な説明を行った多くの案件に関する説明会のやり直しを強いられています。

本アラートでは、FIT/FIP案件に関与する全ての事業者・投資家が留意すべき説明会要件の運用実態についてお届けいたします。また、末尾では、近時弊所にて多くのお問合せを頂いている分野などについてもお届けいたします。

1. 説明会要件の位置づけ

2024年4月1日以降、50kW以上の再エネ発電設備についてFIT/FIP認定を申請するに当たり、周辺地域の住民に対する説明会を実施することが求められるようになりました(再エネ特措法9条2項7号、同条4項6号、再エネ特措法施行規則4条の2の3第1項。経済産業省のウェブサイト(こちら)もご参照ください。)。説明会は、原則として認定申請(FIT/FIP入札案件では認定申請補正期限)の3か月前までに実施される必要があります。また、新規認定を申請する場合に限らず、事業者ないしその密接関係者の変更など一定の事由の変更に伴う変更認定申請に当たっても同様です(再エネ特措法施行規則10条1項、4項)。

再エネ特措法上の認定要件として求められている説明会は、再エネ特措法施行規則に定める基準を満たす必要があり(再エネ特措法施行規則4条の2の3第2項)、これが満たされない場合には認定の拒否や取消しの可能性があります。

経済産業省ではガイドライン(以下「説明会ガイドライン」。こちらを参照)を公表し、これらの基準の詳細を定めています。たとえば、住民説明会では、一定の事項について「必要かつ適切な説明」をすることが求められるところ(再エネ特措法施行規則4条の2の3第2項3号)、説明会ガイドラインでは、「資料を配布し、当該資料に基づいて説明する」よう求めるとともに(第3章第4節1.)、規則が列挙する説明項目の詳細を定めています(同2.)。さらに、再エネ特措法施行規則では、認定申請時に、説明会を「実施したことを証するために必要な報告書その他の書類」の提出を求めているところ(再エネ特措法施行規則4条の2第2項7号の3)、説明会ガイドラインは、認定申請時に「説明会において説明項目及び説明事項の全てについて説明を行ったことを確認できる配布資料」を添付することを求めています(第3章第6節)。

2. 住民説明会の運用実態

各経済産業局の指導例のうちには、説明会ガイドラインを過度に形式的かつ厳格に解釈したものが存在します。説明会の要件化から1年が経った2025年4月1日には説明会ガイドラインが改訂されましたが、この改訂に関して実施されたパブリックコメント手続(同年2月4日から3月5日まで意見受付、同年4月1日に経済産業省回答公表。こちらを参照。以下「改訂時パブコメ」)においては、76件の意見が提出されており、「ひとつでも説明漏れがあると、住民説明会の再実施が要求されている」といった運営実態を疑問視するものが多数含まれています(12番)。

たとえば、再エネ特措法施行規則では、住民説明会において説明すべき事項の1つとして、「関係法令……の規定の遵守に関する事項」を挙げています(4条の2の3第2項3号ロ)。説明会ガイドラインでは、この点に関し、実際に必要な法令上の許可等のほか、経済産業省が別途事業者に提出を求めている「関係法令手続状況報告書」の様式(経済産業省のウェブサイト(こちら)を参照)に記載の法令に基づく手続の要否、許可等の取得状況、スケジュール等を説明するよう求めています(第3章第4節2.)。

指導例のうちには、事業者が「関係法令手続状況報告書」に記載された法令上の許可が不要であったことから、配付資料において当該法令を記載しなかったところ、当該不記載を理由に、説明会要件を満たさないとして、説明会の再実施をしない限り認定は不可であるとの指導がされたものがあります。改訂時パブコメにおいても同旨と思われる意見が複数寄せられていますが、経済産業省は、改訂時パブコメ回答において、関係法令手続状況報告書記載の法令に基づく許可について、たとえそれが不要であっても、配付資料に当該法令を挙げた上で許可が不要である旨を記載しなければならず、当該記載を欠く場合には説明会の再実施を求めるとの姿勢を示しています(12番参照)。

この関係法令手続状況報告書の様式は随時予告なく改訂され得る点にも留意する必要があります(なお、直近では、2022年4月1日、2023年10月5日、2024年4月1日、2025年4月1日、同年5月1日に改訂されています。)。

このほかの項目についても、各経済産業局において、説明会ガイドラインにおいて定性的な記載がされている説明事項や説明会ガイドラインからは直ちに読み取れない事項に関する配付資料の記載に不備があるとして、説明会の再実施を求めている事例は少なくありません。

3. 経済産業省の運用による深刻な影響

前記のとおり、経済産業省は、再エネ特措法施行規則及び説明会ガイドラインからは直ちに読み取れない点を含め、その認定審査において硬直的な運用を行い、「説明項目や説明事項に説明漏れがある場合には、説明会の再実施」を求めています(改訂時パブコメ回答12番)。こうした不合理な運用により、現場には大きな混乱が生じており、事業者の負担するコストがいたずらに増大することはもちろん、自治体や地域住民の方からも困惑の声が事業者に寄せられている事例もあります。こうした実態を踏まえ、改訂時パブコメでは、経済産業省による説明会配付資料のテンプレートの公表を求める声も寄せられていますが、経済産業省は、自身で説明会配付資料のテンプレートやチェックリストを提供することについては消極的です(改訂時パブコメ回答12番)。また、各経済産業局では、配付資料の事前確認を求める事業者の申入れを原則として拒否しています。このため、事業者は、事前に確証を得られないまま住民説明会を実施せざるを得ず、住民の方に対して実質的に十分な説明を行っていたとしても、認定を拒否されるリスクに曝され続けることとなります。なお、経済産業省はコールセンターの窓口などで「丁寧な回答」に努めてきたと説明していますが(改訂時パブコメ回答12番)、コールセンターでは基本的に公表資料以上の説明は提供しておらず、かつ、説明会要件以外の重要な論点において明白に審査実務と異なる誤った回答がされた例も複数あり、コールセンターが有用な指針となり難いことは否めません。

説明会の再実施が指示された場合、当該再実施のために投入される直接的な費用・労力、工事や運転開始遅延に伴う損害は、無視し得ない大きなコストとなります。また、FIT/FIP入札案件では、認定が拒否されれば入札保証金(5,000円/kW。20MWならば1億円、50MWならば2億5000万円)が没収されることとなるため(ただし、1回に限って1年後の入札に繰越し可能)、この観点でも留意が必要です。

さらに、林地開発許可等の一定の開発許認可が必要な場合や法アセス対象案件では、FIT/FIP認定申請前の説明会に加え、より初期の当該開発許可取得前や配慮書作成前の段階でも住民説明会を実施する必要があります(再エネ特措法施行規則4条の2の3第2項7号)。こうした初期段階の住民説明会は申請の数年前に実施される可能性もあるところ、事業者は、その際の配付資料の不備を数年後の認定申請時に指摘されて、認定を拒否される可能性もあります。この場合、許可取得前や配慮書手作成前の状態に復することは事実上困難であることも多く、難しい対応を迫られる可能性があります。

なお、2025年4月1日施行の再エネ特措法施行規則の改正により、「長期安定適格太陽光発電事業者」の制度が導入されています(再エネ特措法施行規則第4条の2の3第1項第1号ロ)。同制度は、FIT/FIP太陽光案件において、当該案件の譲受人(新たな事業者又は密接関係者)が「長期安定適格太陽光発電事業者」として経済産業大臣の認定を受けている場合には、当該譲受けに伴う変更認定申請(事業者又は密接関係者の変更)の際に、説明会の開催の代わりに事前周知措置を行うことで足りるとする制度です。もっとも、「長期安定適格太陽光発電事業者」として認定を受けるには、少なくとも上場している株式会社又は自治体から出資を受けている者である必要があり、必ずしも多くの事業者が当該認定を受けられるものではありません。

4. 求められる対応

新規認定申請や事業者変更時の変更認定申請に際して住民説明会が求められるようになってから1年が経過しました。しかし、前記のような経済産業省の不合理な制度運用は、地域における十分な合意形成が達成され、且つ地元の期待が寄せられている案件を含む再エネ案件の運転開始を遅延させかねない上、案件の形成や案件譲渡を通じた投資回収・新規参入にも大きな足かせとなりかねません。経済産業省の不合理な制度運用のために、大きなリスクとコストの負担を余儀なくされる事業者はもちろん、自治体や地域住民といった関係者の間には、制度導入時以上の困惑が感じられます。事業者の皆様におかれては、こうした運用実態を正確に把握し、可能な限りリスクを低減するため適切な対応を取ることが求められています。

弊所では、近時、説明会に関して多くのご相談を頂いております。弊所エネルギーチームは、FIT制度導入以前から国内外の再エネ事業者をサポートしてきた長年の知見を有しており、説明会に関しても、実施の前後を問わずご相談を承っておりますので、ご懸念やご質問がありましたらぜひご連絡ください。

5. 蓄電池、データセンターなど 再エネ業界の今後の展望

FIT/FIP案件の説明会要件に関しては上記のとおり大きな課題があるものの、事業者の皆様の努力により、再エネ案件や蓄電池案件の開発は引続き旺盛に行われており、水素や電力トレーディング等に関するお問合せも継続的に頂いています。

また、特に近時は生成AIのプレゼンスの拡大等を背景にデータセンターの建設ないし電力供給に関する取組みが盛り上がりを見せており、2025年6月6日には経済産業省のワット・ビット連携官民懇談会における中間とりまとめ(こちら)も公表されています。弊所でも、データセンターに関するお問合せを多数頂いており、2025年5月にはデータセンターに関するパネルセッションを開催したほか(こちら)、今月はデータセンターに関するガイドの発行も予定していますので、ご興味のある方は配信登録をお願いします(こちら。登録はこちらから)。

弊所東京オフィスでは、様々なバックグラウンドを持つ弁護士で構成されたエネルギーチームが、海外チームとも連携しつつ、再エネや蓄電池の分野で新たな挑戦をされる事業者の皆様をサポートしております。今後、データセンターにご関心のある事業者様を対象としたセミナーを含め、事業者の皆様のお役に立てるイベントの開催も検討しております。