新型コロナウイルス:緊急事態宣言後に会社が取り得る選択肢


April.17.2020

English: Employers’ Options after the Declaration of State of Emergency in Japan

2020年4月7日に、安倍総理大臣は、7都道府県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、福岡県)を対象に、効力を5月6日までとする新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を行った。その後、対象地域の各知事は、独自の基準で、外出の自粛、休業や時間短縮、学校の閉鎖などの緊急事態措置を要請するとともに、休業に応じた事業主への補償を発表している。そして、4月16日には、緊急事態宣言の対象地域を日本全国に拡大することが発表された。

ここでは、刻一刻と状況が変わる中で、4月16日時点において発表されている政府や厚生労働省の公式見解、助成金等の支援制度を中心に、労働法を専門とする弁護士の立場から、新型コロナウイルスの影響を受けている会社が取り得る選択肢のうち、重要なものについて述べる。

一時解雇という制度はない

日本には、米国のような一時解雇(temporary layoffs)の制度はなく、経営危機に直面している会社であっても、経営上の理由により従業員を解雇するためには、「整理解雇」の高いハードルを越えなければならない。すなわち、裁判で争われた場合には、いわゆる整理解雇の4要件(人員削減の必要性、解雇回避努力、人員選定の合理性、手続の相当性)を満たしていないと判断された場合には、解雇は無効となる。

経営危機に直面した会社が、従業員を一旦解雇して失業手当を受給してもらい、新型コロナウイルスが落ち着いたら再雇用するという方法をとった場合には、解雇された従業員は、再就職活動をする意思がないとして、失業保険の支給が得られない可能性があり、再雇用を前提とした解雇は注意が必要である。

他方で、会社が経営難を理由に従業員に退職を勧奨し、一定の特別退職金を支払って合意退職の形をとった場合には、従業員は、特定受給資格者として、解雇された場合と同様の有利な条件[1]で、失業保険の給付を受けることができる。会社に余力があるうちに解雇をした場合には、整理解雇の要件の一つである「人員削減の必要性」が認められず、解雇が無効と判断されるリスクは高い。従って、会社が解雇せざるを得ない深刻な状況に至っていない場合には、退職勧奨に基づく合意退職や、休業命令と雇用調整助成金の申請といった、解雇以外の方策を探ることが賢明である。

休業手当はどのような場合に支払う必要があるか

会社によっては、休業要請に応じて店舗の閉鎖や時間短縮を余儀なくされたり、受注の減少、海外からの原料供給の遅延などにより、一部又は全部の従業員を、一定期間、休業させたり、または、週5勤務を週3勤務にするといった雇用調整をすることによって、雇用を維持するケースもある。

労働基準法26条は「使用者の責めに帰すべき事由」の休業の場合、使用者は、平均賃金の6割以上を休業手当として支払わなければならない、と定める。従って、休業が「不可抗力」による場合には、会社は、賃金も、休業手当も、支払う義務はない。労働基準法は労働条件の最低限を定めているので、「不可抗力」による場合に、会社が進んで休業手当を支払うことにもちろん問題はなく、その場合には、平均賃金の6割を下回る金額でも構わない。また、休業手当の支払義務がない場合であっても、雇用調整助成金を受給することができるが、雇用調整助成金は、平均賃金の6割以上を休業手当として支払った場合に限って支給されるので、注意が必要である。

それでは、今回の新型コロナウイルスの影響で休業した場合に、どのような事情があれば、「不可抗力」による休業と言えるのであろうか。

厚生労働省の企業向けのQ&A[2]は、一般に、「不可抗力」による休業に該当するには、

① その原因が事業の外部より発生した事故であり、かつ、

② 事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること

が必要であると述べる。

そして、①として、今回の緊急事態宣言や、都道府県からの要請・指示が該当するとする一方、②については、例えば、自宅勤務などの方法により従業員を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか、また、従業員に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないかといった事情を判断する、としている。従って、緊急事態宣言や、都道府県からの要請・指示に応じただけでは、直ちに「不可効力」に該当するとはいえないが、②休業の回避について、通常会社として行うべき最善の努力を尽くしてなお、休業とする場合には、「不可抗力」に該当し、休業手当の支払義務はない。

難しいのは、休業要請を受けてはいないが、会社が、新型コロナウイルスの影響で、事業を休止するなどして、休業する場合である。このような場合に、休業手当の支払義務があるのかどうかについては、ケースバイケースの判断となり、専門家の間でも意見が分かれるところである。厚生労働省のQ&Aには、「例えば、海外の取引先が新型コロナウイルス感染症を受け事業を休止したことに伴う事業の休止である場合には、当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要がある」と記載されているのみであり、個別の事案において、休業手当を支払うべきであったのかどうかは、最終的には、裁判所の判断を待たざるをえない。裁判で負けた後、雇用調整助成金を申請することはできないので、休業に際しては、平均賃金の6割以上の休業手当を支払い、雇用調整助成金を申請することを検討することが穏当と思われる。

なお、雇用調整助成金の申請には、休業期間等を定めた労使協定の締結が必要であり、従業員との話し合いは不可避である。また、雇用調整助成金を申請しない場合であっても、会社は、従業員を休業させるにあたっては、休業手当の水準や、休業日や休業時間の設定等について、従業員とよく話し合って、従業員の不利益を回避すべく努力することが期待されている。

雇用調整助成金の特例措置

雇用調整助成金は、経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的に休業等を行って労働者の雇用の維持を図る場合に、休業手当の一部を助成する制度であり、従前からある制度である。

厚生労働省は、2020年4月1日から6月30日の期間(「特例措置期間」)の休業について、コロナウイルス感染症拡大防止のため、雇用調整助成金の特例措置を実施している[3]

ここでは、従前の制度と、今回の特例措置の違いを中心に、ポイントを説明する。

支給対象

・ 景気の変動、産業構造の変化などに伴う経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主 → 新型コロナウイルス感染症の影響を受けるすべての事業主

・ 事業所設置後1年以上の事業主 → この要件を撤廃

・ 雇用保険に加入している従業員が対象 → 雇用保険に加入できない週20時間未満の従業員も対象

・ 雇用されてから6か月未満の従業員は対象外 → この要件を撤廃

主な支給要件

・ 最近3カ月の生産量、売上高等が前年同期と比べて10%以上減少 → 最近1カ月に5%以上減少に緩和

・ 従業員及び派遣社員の直近3カ月の数が一定数(大企業:5%超えかつ6人以上、中小企業[4]:10%超えかつ4人以上)以上増加していないこと → この要件を撤廃

・ 1年間のクーリング期間が必要(雇用調整助成金の支給を受けたら、その後、1年間は受給不可) → この要件を撤廃

・ 休業規模は、対象従業員に係る延べ日数が大企業は所定労働日数休業の1/15、中小企業は1/20以上である場合に限る → 大企業は1/30、中小企業は1/40以上に緩和

・ 短時間休業については、事業所の労働者が一斉に休業する場合に限る → 短時間休業についても、一定のまとまり(事業所内の部門、店舗等施設)ごとの休業も対象

支給金額

・ 休業手当について、大企業は1/2、中小企業は2/3を助成(但し、1人あたり1日8330円が上限) → 大企業は2/3(誰も解雇しない場合は3/4)、中小企業は4/5(誰も解雇しない場合は9/10)を助成(8330円の上限は変更なし)

・ 支給限度日数は1年間で100日、3年間で150日が上限 → 特例措置期間中の休業については、この日数とは別枠で日数を数える

申請手続・支給時期

・ 休業計画届は6月30日までは事後提出が可能。事後提出した場合には、提出日の翌日から2か月以内に支給申請をすればよい。

・ 申請から支給までの期間は、現状の2か月を1カ月に短縮。

持続化給付金

経済産業省は、4月13日に、持続化給付金として、売上が急減した中小企業に最大200万円、個人事業主に最大100万円の現金を支給する(但し、昨年1年間の売上からの減少分を上限とする)と発表した。支給の対象は、新型コロナウイルスにより、昨年度の同月よりも50%売り上げが減少している会社[5]と個人事業主である。最速で大型連休明けの給付を目指しており、詳細な申請方法は、4月最終週を目途に、決定され次第公表するとしている。

働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)[6]

新型コロナウイルス対策としてテレワークを新規で導入する中小企業には、テレワーク用通信機器(シンクライアント型パソコンの購入費用は含むが、シンクライアント型以外のパソコン、タブレット、スマートフォンの購入費用は含まない。)の導入・運用、就業規則の変更等にかかる費用等について、費用の50%(但し、100万円が上限)まで、働き方改革推進支援助成金が受給できる。対象となる実施期間は、2020年2月17日から5月31日であり、計画書は、事後提出でもよく、5月29日までに助成金交付申請書を提出することとされている。

大企業と、既にテレワークを導入している会社は対象とならないが、従業員の全員ではなく、1名がテレワークを導入した場合でも、対象となる。

[1]退職勧奨に基づく退職は、解雇と同様に、会社都合退職に該当し、自己都合退職とは異なり、離職後3カ月間の給付制限期間がなく、失業保険を受給できる期間も長く、受給資格を得るための雇用保険の被保険者期間は短い。

[2]https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

[3]https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

https://www.mhlw.go.jp/content/000621561.pdf

[4]卸売業は資本金の額(又は出資の総額。以下同様)が1億円以下である企業又はその常時使用する従業員の数が100人以下である企業、サービス業は資本金の額が5,000万円以下である企業又はその常時使用する従業員が100に以下である企業、小売業(飲食店を含む)は資本金の額が5,000万円以下である企業又はその常時使用する従業員が50人以下である企業、その他の業種は資本金の額が3億円以下である企業又はその常時使用する労働者の数が300人以下である企業

[5]2020年1月から12月までの内、2019年の同月比で売り上げが50%以上減少したひと月を事業者が選択できる。

[6]https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisikitelework.html