Japan Renewable Alert 29: 未利用資源の有効活用 – バイオマス発電の急伸

Energy & Infrastructure Alert
June.01.2017

English:  Effective Use of Untapped Resources – A Surge in Biomass Power Generation

近時、資源エネルギー庁は、バイオマス発電を、原子力に代替し得る安定的な電力として2030年度までに最大限導入するという方針を明らかにしました。2016年12月時点で、再エネ特措法の適用があるバイオマス発電の既存導入容量は約190万kW(そのうち木質バイオマス発電については約98万kW)でしたが、2030年度にはバイオマス発電全体で475万kWから601万kW(そのうち木質バイオマス発電については335万kWから461万kW)の導入が目標とされています。

これを受け、近時、バイオマス発電、とりわけ、日本における未利用木材の有効利用を促し、かつベースロード電源となり得る木質バイオマス発電が注目を集めています。本アラートレターでは、お問い合わせをいただくことが多い木質バイオマス及び木質バイオマスと混焼されることの多い農産物の収穫に伴って生じるバイオマス(「農作物残渣」)を利用した発電についての基礎的な法制度の概要、注意点及び展望についてご紹介いたします。

1.        木質バイオマスとは

再エネ特措法において、木質バイオマスとは、動植物に由来する有機物であってエネルギー源として利用することができるもののうち木竹に由来するものをいいます。

2.        調達価格及び調達期間

木質バイオマスに係る2017年度の調達価格は、木質バイオマスの種別に応じて以下のとおり定められています。なお、2017年4月1日に施行された法改正に伴い複数年の調達価格の決定が可能となり、当該調達価格は、2019年度まで据え置きとされました。

木質バイオマス発電設備の区分 調達価格(税抜)
未利用木質バイオマス(2,000 kW未満) 40円/kWh
未利用木質バイオマス(2,000 kW以上) 32円/kWh
一般木質バイオマス・農作物残渣(20,000 kW未満) 24円/kWh
一般木質バイオマス・農作物残渣(20,000 kW以上) 21円/kWh (2017年9月末まで24円/kWh)
建設資材廃棄物 13円/kWh

 
木質バイオマス発電に係る2017年度の調達期間は、バイオマスの種別にかかわらず20年間と定められています。

なお、バイオマス燃料の種類の変更には変更認定を要するものの適用される調達価格及び調達期間の基準年度は変更されないため、例えば2017年度の調達価格及び調達期間が適用される一般木質バイオマスを利用したバイオマス発電を行っていた場合において、2026年度に至り未利用木質バイオマスを燃料とすることとなったとしても、当該燃料変更時点以降、(2026年度の調達価格ではなく)2017年度の未利用木質バイオマス燃料による発電に関する調達価格である40円/kWh(2,000 kW未満の場合)又は32円/kWh(2,000 kW以上の場合)が適用されることになります。 

3.        木質バイオマスの種別

(1)        未利用木質バイオマス

林野庁の「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン」(「証明ガイドライン」)によれば、未利用木質バイオマスに該当するのは、①間伐材、及び②間伐以外の方法により森林経営計画の対象林や保安林など特定の森林から適切に伐採、生産される木材とされています。一般に、伐採されながら利用されずに林地に放置されている未利用間伐材や主伐残材などがこれにあたります。林野庁の「木質バイオマス発電・証明ガイドラインQ&A」(「証明Q&A」)では、「製紙用など既存用途で販売されたことがない。今後も販売できる見込みがない」、「既存用途で販売しているが、製紙用などとして受入れ可能と言われている数量を超えた」などの例が挙げられています。なお、輸入木材は未利用木質バイオマスから除外されています。

(2)       一般木質バイオマス

未利用木質バイオマス及び建設資材廃棄物以外の木質バイオマスであって、①木材の加工時等に発生する端材、おがくず、樹皮等の残材、又は②それ以外の木材であって「由来の証明」が可能なものをいいます。林野庁の「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」(「合法性ガイドライン」)に基づく合法性等の証明が可能な輸入木材は、一般木質バイオマスに含まれます。また、未利用木質バイオマスにあたる間伐材を製材した際に生じる製材等残材も、一般木質バイオマスとされています。 

(3)       建設資材廃棄物

建設資材が廃棄物処理法上の「廃棄物」となったものをいいます。なお、証明ガイドラインに基づく由来の証明ができない木質バイオマスも建設資材廃棄物とみなされ、建設資材廃棄物と同等の調達価格(2017年度の時点で13円/kWh)が適用されることになります。

4.        木質バイオマスの証明

(1)        由来の証明

木質バイオマス発電は、利用する木質バイオマスの種別に応じた発電設備の区分によって調達価格が異なるため、未利用木質バイオマス及び一般木質バイオマスについては、適切な識別及び証明がなされ、かつ他の木質バイオマスと分別管理されることが極めて重要となります。未利用木質バイオマス又は一般木質バイオマスに係る調達価格の適用を受けるためには、各木質バイオマスの種別に応じて定められる証明方法に沿って、由来を証明する必要があります。かかる証明又は分別管理がなされない木材は、調達価格の低い建設資材廃棄物として取り扱われるためです。

なお、輸入木材の場合、合法性ガイドラインに基づく合法性及び持続可能性に関する証明書が必要とされます。「合法性」とは伐採にあたって原木の生産される国又は地域における森林に関する法令に照らし手続が適切になされたものであることを、「持続可能性」とは持続可能な森林経営が営まれている森林から産出されたものであることをいいます。これらの証明(「合法性等の証明」)は第三者機関の評価・認証や関係団体の認定を用いて行うことが可能です。 

(2)       合法性の確認

合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(「クリーンウッド法」)が2017年5月20日に施行されました。クリーンウッド法によれば、木材等を利用する事業者であって主務省令で定める者(「木材関連事業者」)は、木材等を利用するにあたり合法伐採木材等(日本又は原産国の法令に適合して伐採された樹木を材料とする木材)を利用するよう努めるものとされています。クリーンウッド法施行規則では、再エネ特措法により認定を受けた木質バイオマス発電事業に係る発電事業者も同法における木材関連事業者に該当するものとされており、また、クリーンウッド法に係る基本方針によれば、木材には木質ペレット、チップ及び小片が含まれるため、当該木材を利用する木質バイオマス発電事業者は、クリーンウッド法に基づき合法伐採木材等を利用するよう努めるものとされています。

5.        木質バイオマス発電の注意点

(1)        許認可

木質バイオマス発電所も火力発電所の一種であるところ、環境影響評価法又は環境影響評価条例に基づく環境影響評価が必要とされる場合、通常3~4年程度の期間を要するとされています。対象プロジェクトに対する環境影響評価の必要性については、予め関連法令の精査等が必要になります。

また、廃棄物処理業に該当する業務を行う場合には、廃棄物処理法に基づく収集運搬又は処分業の許可が必要となります。事前協議を経て当該許可を取得するまでに1年ほどの期間を要する場合もあるため、プロジェクト検討の際には、廃棄物処理業への該当性の精査及び該当する可能性がある場合には許可取得に要する期間も考慮に入れる必要があります。 

(2)        出力抑制

一般送配電事業者等による電気の供給量が需要量を上回ることが見込まれる場合、発電事業者は当該一般送配電事業者等の指示に応じて出力を抑制しなければならず、再エネ特措法上、かかる出力抑制に同意することが系統連系の条件とされています。バイオマス発電については従来火力発電と同様に扱われていましたが、そのうちバイオマス専焼発電については再生可能エネルギー導入への貢献度の観点及び太陽光発電等と異なり安定電源であることから、一般の火力発電や化石燃料混焼発電より優遇すべき(すなわち、出力抑制の行われる順序を下げるべき)とされ、また地域に賦存する資源を活用する地域資源バイオマス発電の要件をみたす発電事業についてはエネルギー自給率向上や地域活性化に資するため更に優遇すべきとされています。なお、バイオマス発電について出力抑制が行われる場合、バイオマス発電は発電時間をずらすことで基本的には発電機会の損失が生じず、また国民に受益がないにもかかわらず国民負担を生じさせるべきでないとの観点から、出力抑制に起因する損害の補償については定められていません。 

(3)        安定確保

特に利用の増加が見込まれる未利用木質バイオマスの場合には燃料調達のための事業環境整備(林業との調和等)が必要になることや、輸入木材等を利用する場合には将来的にも安定的な調達を確保すべく方策を尽くす必要があることは木質バイオマス発電固有の検討事項といえます。プロジェクトファイナンスにより資金調達を行うためにも、木質バイオマスの長期的かつ安定的な調達が重要となります。

6.        木質バイオマス発電の展望

近時、木質バイオマス発電に対しては、日本政策金融公庫、日本政策投資銀行、グリーンファンド(一般社団法人グリーンファイナンス推進機構)及び地方公共団体によるふるさと融資による融資実績が公表されています。

また、木質バイオマス発電に関して、種々の優遇策も講じられております。例えば、木質バイオマスの供給に係る木材加工流通施設の整備等が地方公共団体による補助金交付の対象となり得ます。さらに、2016年度より2万kW未満の木質バイオマス発電設備(木質バイオマスであって、専ら未利用木質バイオマス又は一般木質バイオマスを燃料とするものに限ります。)がグリーン投資減税の対象に含まれることとなりました。適用期間内(2018年3月31日まで)に対象設備を取得・建設し、その日から1年以内に事業の用に供した場合、事業の用に供した日を含む事業年度において30%の特別償却が認められています。

上記のとおり、木質バイオマス発電は、国内の未利用木質バイオマスの活用を図るとともにベースロード電源としての活躍が期待されているため、政府推進の下、2030年度までに現在稼働している発電容量の4倍から6倍近い容量の導入が目標とされています。木質バイオマス発電に関連する種々の注意点に対して適切な対処を行い、今後木質バイオマス発電プロジェクトが急速に増加することが期待されます。