CFIUSによる規制強化案で取引リスクは増加する


5 minute read | June.11.2024

English: CFIUS’s Proposed Regulatory Enhancements Would Increase Transactional Risks

対米外国投資委員会(以下「CFIUS」といいます。)は、当事者からの自発的な届出を主に審査していた限定的な管轄権を持つ機関から、精力的な監視、調査及び執行の役割と能力を持つ組織へと変わる重要な一歩を踏み出しました。

 2024年4月15日に公表された立法案公告において、CFIUSは調査、罰則及び執行権限を強化する規制改正を提案しました(以下「本改正案」といいます。)。本改正案は、CFIUSの執行と罰則のガイドライン及びバイデン大統領が2022年9月に発行した大統領令に基づくものです。 

米国の企業と将来の外国投資家にとって、本改正案は、1975年のCFIUS創設以来、CFIUSが最も広範な役割を果たすための舞台を整えるものです。本改正案により、取締りが強化され、大幅に厳罰化された罰則がより広範に適用される可能性があります。本改正案に対する意見は、2024年5月15日までに締め切られ、近日同意見を踏まえた最終案が公表・施行される予定です。 

回答強制権限のある情報提供要請の範囲拡大

現在、CFIUSは、届出されていない取引の当事者に対して、当該取引がCFIUS管轄下にある「対象取引」に該当するかを判断するために必要な情報を提供するように要請することができます。本改正案により、CFIUSは、届出されていない取引について、上記の情報に加えて、国家安全保障上の懸念点の存否の判断や、CFIUSへの届出義務の要件該当性の判断に関連する情報を提供するように要請する権限が認められています。 

さらに、本改正案では、CFIUSが以下の目的のために必要と判断した情報を要求することも認められます: 

  • 取引当事者が締結した国家安全保障に関する取決めの条件の遵守状況を監視し、または執行すること 
  • 取引当事者がCFIUSの審査や調査において重大な虚偽記載を行った、または重要な情報を省略したかどうかを判断すること 

現在、CFIUSは取引当事者との非公式なやりとりを通じてこのような情報を受領しています。本改正案により、取引当事者はCFIUSの情報提供要請に応じることが義務付けられ、CFIUSは令状を発出して回答を強制し、以下で述べるとおり、重要な虚偽記載や事実の省略に対して多額の制裁金を課すことができるようになります。 

リスク緩和措置の交渉期間の短縮 

本改正案は、CFIUSが提案するリスク緩和措置の条件に対して取引当事者が3営業日以内に回答することを初めて義務化しました(ただし、当事者の書面による要請によりCFIUSが期限を延長する場合はこの限りではありません。)。期限までに、取引当事者は、CFIUSが提案するリスク緩和措置の条件に対して、次のいずれかの実質的な回答を提供する必要があります: 

  • 条件の受諾、
  • 対案の提示、または 
  • 提案されたリスク緩和措置の条件を履践できない理由の詳細な説明。

本改正案通りに施行された場合、この期限の創設によって、取引当事者は、CFIUSが提案する可能性のあるリスク緩和措置の条件に今まで以上に先回りして対応策や代替案を準備することを強いられることとなります。 

特筆すべきは、本改正案では、CFIUSが提案するリスク緩和措置の条件への取引当事者の回答に対してCFIUSが応答する期限を設定していないこと、また審査や調査期間中にリスク緩和措置の条件をCFIUSが提案する期限を設定していないことです。現在と同様に、CFIUSは調査期間の終了間際にリスク緩和措置の条件を提案する可能性があり、取引当事者は政府が提案する条件を受け入れるか、取引を断念するかの選択を、極めて限られた時間内で迫られる状況に置かれる可能性があります。

劇的な厳罰化

CFIUSは、規制違反に対して民事制裁金をもって対応するという姿勢を堅持する方針です。詳細はまだ公表されていませんが、CFIUSは2023年にいくつかの制裁金を課しており、2024年にも複数件追加で制裁金を課す予定です。これまでのところ、CFIUSは2つの制裁措置を公表しており、2018年にリスク緩和措置の違反に対して100万ドルの制裁金、2019年に暫定的なリスク緩和措置命令の違反に対して75万ドルの制裁金を課しています。

本改正案は、CFIUSが課すことができる最大の民事制裁金を以下のとおり劇的に増加させます:

  • 重大な虚偽記載または省略が含まれる申告や通知を提出する、もしくは虚偽の認証をすることに対する制裁金は、違反ごとに最大25万ドルから最大500万ドルに増加し、20倍になります。 
  • 届出されていない取引に関するCFIUSの情報要求への回答、国家安全保障に関する取決めの履行の監視や違反の取締り、または以前のCFIUSによる審査や調査の一環において取引当事者が重大な虚偽記載や重要な情報の省略をしたかどうかを判断するための情報に関する重大な虚偽記載または省略に対する制裁金は、違反ごとに最大500万ドルとなります。 
  • リスク緩和措置に基づき提出した報告やそれに付随する認証に重大な虚偽記載または省略が含まれる場合の制裁金は、違反ごとに最大500万ドルとなります。 
    義務的届出をしなかった場合の制裁金の最高額は、取引金額または25万ドルのいずれか大きい方から、取引金額または500万ドルのいずれか大きい方へと増加します。 
  • 最終規則の発効日以降に締結されたリスク緩和措置の重要な条項への違反ごとに課される制裁金の最高額は、以下のうち最も大きいものとなります: 
    • 500万ドル
    • 違反当事者が取引時に持っていた米国事業(または対象不動産)の持分の価値 
    • 違反が問題となった時点(またはその価値の評価が実施可能な違反に最も近い時点)での違反当事者が持っていた米国事業(または対象不動産)の持分の価値
    • CFIUSに届出がされた取引金額

本改正案の重要性 

CFIUSは一貫して、CFIUSの執行能力を強化する意向を示してきました。CFIUSのより頻繁な執行によって、米国企業と外国投資家にとって、CFIUSの規制を遵守することがますます重要になる新しい時代に入るものと思われます。

本改正案により、CFIUSは、より強力な制裁金や追加の情報カテゴリーに対する回答要求権限といった、その執行能力強化の意向を現実のものにするための新しいツールを持つことになります。民事制裁金の上限の急激な引上げと制裁金を課す根拠の拡大は、米国企業および外国投資家にとって、取引を開始し、または完了する前にCFIUSのリスクと要件を考慮することの重要性を高めるでしょう。 

また、取引金額が小さいものであっても、事前届出義務違反に対する制裁金が高くなることによって、米国企業は自社が「クリティカルテクノロジー」を設計、開発、製造、製作、またはテストするものであるかを外国からの投資を受け入れる前に判断することがさらに重要になるでしょう。

CFIUSのリスク緩和措置の条件の提案に対して、取引当事者が3営業日以内に回答しなければならないという期限が設けられたことにより、条件を受け入れるか取引から撤退するかの判断を迫る圧力が強まります。同時に、リスク緩和措置の違反に対する制裁金上限の引上げにより、監視機関であるCFIUSとリスク緩和措置を交渉する当事者にとっては、提案された条件を理解し、履践することができる条件のみに同意することがさらに重要になるでしょう。